紅麹サプリメント事故からみた機能性表示食品の危うさ

by 松島悦子

2024年3月、健康のために利用していたはずの紅麹サプリメントによって、死者、入院者を含む多くの人の健康被害が報告されました。その背景には何があるのでしょう。命や健康を守るため、自分が摂取するものについて知ることが重要です。いわゆる「健康食品」、特に機能性表示食品に注目したいと思います。

■紅麹サプリメントによる健康被害

紅麹サプリメントによる腎疾患などの健康被害が、2024年3月22日に公表されました。対象製品は、小林製薬株式会社が販売していた製品「悪玉コレステロールを下げる」「内臓脂肪を減らす」など医薬品まがいの健康効果を謳った機能性表示食品です。食品衛生法に基づき、3月27日付で回収命令が下されました。さらに、同社の紅麹を原料とした関連製品も、自主回収されています。

小林製薬によると、2025年5月18日現在、入院563人を含む医療機関受診者2,779人、死者140人(詳細調査対象)と公表されています。健康のために摂取していたはずですが、痛ましい事故となりました。原因物質は、製造過程で混入した青かびによる産生物質のプベルル酸と特定されました。

出所 : 厚生労働省 公開回収事案詳細公開されている食品リコール情報より) 

■いわゆる「健康食品」とは

わが国では、健康食品という言葉に法的な定義はありません。健康や栄養に関する表示が法的に認められるのは、特定保健用食品(通称、トクホ)、栄養機能食品機能性表示食品で、これら3つを保健機能食品といいます。その他の健康に役立つと謳う食品(その他のいわゆる健康食品)は、十分な科学的根拠が確認されておらず、健康への効果の表示・広告は禁じられています。以上の食品を合わせて、いわゆる「健康食品」と呼びます。

出所:消費者庁第435回消費者委員会本会議参考資料
「機能性表示食品制度の施行状況について令和6年5月」をもとに筆者作成

上図の左にある医薬品は、本質的に生体に影響があり、リスクのある製品です。生命の機能に直接的に影響を与えることを目的として開発され、製品化されたものです。申請するには臨床試験(ヒトによる試験)が必須で、開発に当たって長い年月と膨大なコストがかかります。製造に関しては、GMP(適正製造規範による製造管理)の適用で安全性を確保し、販売に際しては、有効性や安全性に関する情報を提供しなければなりません。

それに対し、いわゆる「健康食品」は、医薬品とは全く異なり、あくまで食品として製造・販売するものです。その中で最も厳格な審査を要する食品は、「特定保健用食品(トクホ)」。個別許可制をとり、個別商品ごとに効果と安全性について国の審査を受けます。安全性は食品安全委員会で評価され、効果については消費者庁の専門委員会で審議されます。有効性の科学的根拠として、動物による試験のほか最終製品を用いたヒトによる試験が必須です。審査に合格したものは、食品表示法の範囲で「おなかの調子を整える」「コレステロールが高めの方に適する」「血圧が高めの方に適する」といった控えめな表現で健康効果の表示と、消費者庁の許可を示す公定マークをつけて、販売することができます。

栄養機能食品については、ビタミン13種、カルシウム6種,n-3系不飽和脂肪酸といった20の特定栄養成分についてのみ、食品表示基準による表示を行うことが可能です。例えばカルシウムの場合、栄養成分の機能として「骨や歯の形成に必要な栄養素です」という表示が可能です。ただし、摂取の上限量/下限量、摂取をする上での注意事項などの表示義務があります。

出所:消費者庁「機能性表示食品制度の施行状況について」(令和6年5月)
※許可・届け出件数については令和6年3月31日時点
       

機能性表示食品は、国による審査はなく、安全性と機能性(効果)の科学的根拠に関する資料等を消費者庁長官に届け出るだけで、健康効果を表示して商品を販売することができます。安全性・機能性の科学的根拠については国の審査は行われず、あくまで届け出た企業の責任です。機能性表示食品の半数を占めるサプリメントは、医薬品のような形状(カプセル、錠剤、粉末、顆粒など)にもかかわらず、ヒト試験(臨床試験)データの代わりに、販売実績や文献等でも許可されます。

その他のいわゆる「健康食品」は、上記の保健機能食品以外で、健康に役立つと謳って販売される食品全般で、法律上の定義はありません。例えば、機能性食品、サプリメント、栄養補助食品、健康補助食品、自然食品といった名称のものがあります。これらは効能や効果は表示できないため、利用者の体験談や効果を類推させる文言でアピールする製品が多くみられます。

市場にあふれる機能性表示食品

いわゆる「健康食品」全体の市場規模は、1兆円を軽く超え、2024年で1兆2千億円超という推計もあります(2025年健康産業新聞)。今や国民の半数が利用しており、利用者に目的を聞くと、栄養補給や健康の維持・増進の他にも、病気の予防・治療、痩身、ダイエット、体脂肪の抑制、老化防止、美肌・美白などの効果を期待していることがわかりました(東京都令和4年調査)。

その背景には、食生活の変化や高齢化、情報化の進展により、メディアやインターネットから溢れ出る食や健康の情報に晒され、消費者の健康志向や健康への不安、アンチエイジングやダイエットへの関心などが高まっているといえるでしょう。

1991年創設のトクホは、前述のように国が個別審査し表示を許可する制度で、食品安全委員会による安全性評価がなされ、開発には多大な費用と時間を要します。企業にとっては、販売までのハードルは高いといえます。そこで、2015年当時の安倍首相が進めていた規制緩和による経済成長戦略の一つとして、機能性表示食品制度が新設されました。企業自らが安全性や機能性を評価し、消費者庁に届け出れば企業責任で効果の表示をつけて販売が可能となります。臨床試験データの代わりに、販売実績や文献等でも許可され、「機能性表示食品」という名称を得ることができます。開発コストが低い機能性表示食品は事業者にとって魅力的な商品といえるでしょう。トクホに合格しなかった製品が「機能性食品」として堂々と販売されているものもあるそうです。

実際、機能性表示食品の市場規模は増加の一途。許可・届け出件数でみると、2024年3月時点で、トクホは1,054件に対し、機能性表示食品は6,752件と6倍以上。先発のトクホを大きく上回り、今後ますますの増加が見込まれます。また、金額でみると2024年は7,000億円を超えると推計されています。

出所:消費者庁「機能性表示食品制度の施行状況について」(令和6年5月)

また、図の右手にあるように、機能性表示食品の半分以上をサプリメントが占め、機能性表示食品の中でも大変人気があります。しかし、サプリメントは、成分濃縮され、錠剤、カプセル剤、エキス、粉末、顆粒といった医薬品のような形状で過剰摂取に繋がり、毎日何錠という継続摂取により健康疾患を招くことがあると指摘されています。有害物の混入があれば、今回の紅麹サプリメント事件のように危険な事態をおこす恐れがあります。

安全性と有効性について国の審査を通らなければならないトクホと、国の審査はなく企業責任で販売できる機能性表示食品とでは大きな違いがあります。しかし、消費者の健康食品に関する意識調査によると、トクホの認知度・信頼度は高いのに対し、機能性表示食品の認知度は低いことがわかりました。この結果から、両者の違いを意識しないで利用している人も少なくないのではないかと推察されます。

出所:消費者庁「機能性表示食品ってなに?知っておきたい大事なポイント」

■法律を改正しても…

今回の紅麹サプリメントによる健康被害の発生により、機能性表示食品への不安が高まり、食品表示法に基づく内閣府令の「食品表示基準」の改正が行われました(2024年8月23日公布)。主な改正ポイントは以下の通りです。

(1)2024年9月1日より、届出者の遵守事項として、健康被害と疑われる情報を収集し、因果関係が不明でも速やかに消費者庁長官および都道府県知事等に報告することを義務付けた。違反者に対しては、食品衛生法に基づいて営業禁止・停止の行政措置を可能にした。

今回の小林製薬の件では、健康被害を公表したのは2024年3月22日。しかし、その2カ月以上前の1月上旬に、患者を診察した医師らが紅麹サプリメント利用者の健康被害を確認し、同社に問い合わせをしていました。その間、利用者は放置され、危険性を知らされずに摂取し続けたことが被害拡大につながったことは否定できません。

(2)2026年9月1日より、機能性表示を行うサプリメントについてはGMP(適正製造規範)に基づく製造管理を義務化する。

医薬品と誤認しやすい形状や摂取法から過剰摂取等の健康被害の危険性があるため、製造工程管理による製品の品質確保を徹底する観点から導入することとなりました。

(3)表示の的確化の改正が決まりました。

トクホでは許可されていない医薬品まがいの表示がされていることは問題です。「血圧を下げる」「悪玉コレステロールを下げる」などの断定的な表現を、「成分にはLDLコレステロールを下げる機能が報告されている」のような表現にするというのです。このような表現を消費者はどのように受け止めるのでしょう。

さらに、医薬品ではない(疾病の診断、治療、予防を目的にしたも明記ない)こと、機能性および安全性について国が評価していないこと、摂取上の注意事項等を明記し、医薬品等との相互作用や過剰摂取防止のための注意喚起を具体的に記載する等としています。これらについては現在も表示されていると思いますが、パッケージの裏面や見にくい位置に、非常に小さい文字で書かれていることが多く、消費者の目に留まりにくい表示となっています。表示の方法や表示位置などの方式を見直すことも含まれます。

これらの改正によってどのように表示が改善するのか、消費者として今後厳しく注視していきましょう。

■安全性と効果は企業任せ

法改正が行われたとはいえ、機能性表示食品の安全性と効果の評価は企業任せであることに変わりはなく、国は評価を行わないという本質的な問題は解決していません。そこで、機能性表示食品として販売されている製品の広告を用いて、どのような科学的根拠で効果を謳っているのか、調べてみることにしました。

その結果は、次のブログでお知らせいたします。

<参考資料>
・小林製薬株式会社「紅麹コレステヘルプ等に関する事例数」(2025年5月18日時点)小林製薬(株)ホームページ(5月25日参照)https://www.kobayashi.co.jp/notice/

厚生労働省 公開回収事案詳細公開されている食品リコール情報)厚生労働省ホームページ           https://ifas.mhlw.go.jp/faspub/IO_S020501.do?_Action_=a_backAction

消費者庁 第435回消費者委員会本会議参考資料「機能性表示食品制度の施行状況について令和6年5月内閣府ホームページhttps://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2024/435/doc/20240603_sankou1-1.pdf

消費者庁「機能性表示食品ってなに?知っておきたい大事なポイント」消費者庁ホームページhttps://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/movie_001

・和4年度インターネット福祉保健モニター第2回アンケート「健康食品に関する意識や認知度等」について 東京都福祉局https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kiban/shisaku/monitor/result

・令和6年度第1回インターネット都政モニターアンケート「食品の安全性について」調査結果 東京都ホームページ https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2024/10/2024100301

・「~成長トレンドゆらぐ~機能性表示食品・トクホ・ジェネリック医薬品に関する最新の動向調査」日本インフォーメーション(株)2024年5月調査  https://www.n-info.co.jp/report/0062

・金子佳代子、松島悦子『新版 白熱教室 食生活を考える』アイ・ケイ・コーポレーション(2024年7月30日)

・健康産業新聞第1731号(第Ⅱ部)2022年1月5日特集記事

・「健康食品」に関する情報(委員長、座長から国民の皆様へ) 食品安全委員会ホームページ          https://www.fsc.go.jp/osirase/kenkosyokuhin.html

・「これまでの食品表示基準の改正概要について」消費者庁ホームページhttps://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1011.pdf

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