初めてのコロナ体験 ~嗅覚・味覚障害~

by 松島悦子

この夏、新型コロナウイルス感染症が流行すると予想されています。私も、夫が家に持ち込んだウイルスに初めて感染し、発熱、喉の痛み、嗅覚・味覚障害といったコロナに特徴的な症状を順に体験しました。最近は、感染しても多くの患者は軽症で、高額な抗ウイルス薬を求めず対症療法で自然治癒する人がほとんどです。という医師の説明を受けて一般的な道を選び、約2週間で全快しました。「初めてのコロナ体験」を記録に残しておきたいと思い、ここに時系列にまとめてみました。

■発症から回復までの経過

表1.は、発症から快復するまでの経過を示しています。発症日を0(ゼロ)日とし、翌日から1日目とカウントしています。

 

■家庭内隔離の難しさ

夫がくしゃみや喉の痛み、咳の症状を訴え、抗原検査キットで「陽性」と判定されました。共倒れになると大変と思い、夫に自分の部屋に閉じこもっているようお願いしました。ネットで家庭内隔離の方法を検索し、アルコールスプレーやアルコールシートを山のように購入し、夫の触ったと思われるドアノブや蛇口、洗面台、冷蔵庫のドア、玄関、トイレなどを何度も拭き、寝室や食事スペースを分け、手拭きタオルを別にし、考えられかぎりのことを実践してみました。マスクと手洗い、24時間換気システムに加えて時々窓を開ける換気。会話はLINEと電話。それでも洗面所やトイレ、浴室などは共有せざるを得ず、生活動線を分けることができません。マンションでの隔離は想像を超えて難しかったです。

愛犬は、夫が家にいるのにかまってもらえず、いつも以上に私の後追いをして抱っこをせがみます。買い物に出かけた間も、悲しそうに鳴き続けていたそうです。夫と愛犬のケアに、心身ともに疲れ切ってしまいました。

■発熱と味覚異常

努力の甲斐もなく、翌日から37.8℃の発熱と喉の痛みを覚え、私も感染したことを確信しました。同じ家の中で、ウイルスを含んだ飛沫やエアロゾルを避けるのは無理な話。そもそも発症2日前から感染リスクは高かったのでした。

解熱剤カロナールを処方してもらい、高熱は1日でおさまりました。翌日(発症後1日目)から、微熱と目の奥の方の頭痛と咽頭の痛み、倦怠感、節々の痛み、時々の咳といった症状が現れ、安静にして体を休めることにしました。2日目に再度受診し、痰を出しやすくする薬を処方してもらい、喉の症状が楽になりました。

それなのに、夕食で、一歩先に回復に向かっていた夫の手作り焼きそばが、いつもと違ってしょっぱいことに気が付きました。最も恐れていた味覚異常⁉ ショックで、この日夫には話せませんでした。

■嗅覚障害の発症

翌、3日目。嗅覚が全く効かなくなり、味覚は酸っぱい味を認識できなくなりました。甘味、塩味、苦味、旨味などは認識できても、酸味を認識できず、塩味や苦味を強く感じて味のバランスが悪くなりました。お茶や紅茶は香りがなく、味も見分けられず、さ湯のよう。大好きなコーヒーやワインは苦くて飲めない。

何か手立てはないかと医師に相談しましたが、ほとんどの場合1か月以内に自然に治るので心配ないでしょう、とのこと。処方箋はなし。

その後1週間、他の症状が回復しても、嗅覚の機能不全と酸味が分からない味覚異常は後遺症として続きました。いつ元の状態に戻るのか、もう食事や香りを楽しむことができないのか、とても不安でした。

■突然、磯の匂いがやってきた!

発症から12日目の朝、愛犬と海の公園を散歩しているときに、突然、磯の匂いを感じました。本当に、匂いが突然やってきたのです。朝食後の紅茶の香りもキャッチ。昼食の巻きずしの酢飯の味に感激し、夕食時のピザにのせたピクルスやコールスローのマヨネーズ、トマトの酸っぱさを感じることができるようになりました。 嗅覚と味覚の感覚が、戻ってきました!

以上みてきたように、発熱は初日に高熱が出て、その後2日間は微熱、3日目から平熱に戻り、咳や痰などの症状は治まりました。4日目以降11日目までは、嗅覚・味覚障害の後遺症が続き、いつ回復するか先が見えない状況に置かれたことが今回のコロナ感染で最も辛かったことです。

また、おそらく夫と同じウイルスに感染した可能性が濃厚ですが、症状は全く異なっていました。夫は喉の痛みと咳、くしゃみが酷く、私は発熱と後遺症の嗅覚・味覚障害に悩まされたことです。嗅覚・味覚障害の発生率は、女性の方が高いことが臨床データでも示されています。

■コロナ後遺症の嗅覚・味覚障害のふりかえり

金沢医科大学耳鼻咽喉科学の三輪高喜教授の講演を拝聴し、今回の感染に係る主な知見を参考に嗅覚・味覚障害についてふりかえってみました。

≪嗅覚障害の臨床的特徴≫

(1)新型コロナウイルスによる嗅覚・味覚障害の発症率は急激に減少した。ただし感染者数は増加。        

(2)嗅覚障害の臨床的特徴は、①誘因なく突然消失する ②脱失(全く匂わない)あるいは高度の低下 ③画像では嗅裂炎の所見 ④数週で速やかに改善する   日本の研究では、嗅覚障害は平均9日間で半分が改善し、約8割が1か月以内に快復した。なお、数%の患者が、嗅覚・味覚障害を1年以上訴える。

(3)味覚障害は嗅覚障害をともなう。発症時の嗅覚・味覚障害については、「嗅覚障害のみ」が20%、「嗅覚・味覚障害」が37%、「味覚障害のみ」はわずか4%、「障害なし」は39%だった。味覚障害の大多数は嗅覚障害に伴う風味障害かと考察している。

私の事例では、突然嗅覚が全く効かなくなり(脱失)、回復したのは障害が発症してから9日目。平均的な臨床例に含まれるといえます。酸味を認識できなくなったのは、嗅覚が脱失したことに影響していると考えられます。ほぼ同時に発症し、回復もほぼ同時でした。

幸い、甘味や塩味は認識できたので、食事はだいたいおいしくいただけました。むしろ、レタスやキュウリ、青梗菜などの野菜は味付けをしない方がおいしく感じ、野菜の淡い甘味、旨味、塩味を味わうことができました。料理は基本調味料を使って薄味に手作りしたものを好み、食材の味を楽しむことができました。食品添加物が多く含まれる加工食品は苦くて受け入れることができず、生鮮食品のおいしさを再認識した貴重な体験でした。

酸味が復活すると、酸味は料理の塩味や苦味をマイルドにし、苦かったコーヒーの味に奥行きを与え、食事をよりおいしくしていたことに気づかされました。

香りは、失ってみて初めてその味気無さを痛感し、生活に楽しみをもたらし、生活の質を高めることに思いを深めました。また、香りを効果的に用いると心身の健康に寄与することが知られていますが、認知機能を高めるという研究成果も発表されています。

■参考資料

  • コロナ後遺症オンライン研修会「コロナ後遺症と嗅覚・味覚障害~臨床的特徴の経時的変化と対応~」金沢医科大学 三輪高喜教授(令和6年10月6日)(2025年7月31日参照)https://www.youtube.com/watch?v=04p7Sq3zA2k
  • 「香り+VRゲーム 認知機能アップ」東京新聞2025年8月1日朝刊

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