地方への移住・地方での起業を成功に導くためのヒント~滋賀県長浜市を例に~(第5回)Ⅲ.地域おこし協力隊として移住し起業したケース①地域おこし協力隊とは

by 松島三兒

今回から3回にわたり、地域おこし協力隊制度を活用してIターンで長浜市に移住し、起業した人たちの視点に立って、成功に近づくヒントを探っていきます。初回の今回は、長浜市がどのように地域おこし協力隊の制度を活用しているかを見ていきます。

きのもとぐるぽ市 2015年11月21日, 筆者撮影

Ⅲ 県外から移住した人から見た「地方への移住」「地方での起業」

今回から県外から長浜市に移住した人からみた地方への移住、地方での起業に焦点を当てます。2020年度の大学での授業「長浜魅力づくりプロジェクト」において、地域おこし協力隊の制度を利用して長浜に移住した方々3名にインタビューをさせていただきました。今回はそのうち2名の方のインタビューをふりかえっていきますが、その前にそもそも地域おこし協力隊とは何かについて説明しておきましょう。

1 地域おこし協力隊とは

1)地域おこし協力隊の成り立ちと意義

総務省は2008年に、「地域力創造プラン」を策定・公表しました(注1)。これは、活力ある地域社会を、次の3つの柱に基づく取組を展開することで形成していこうというものです。
① 定住自立圏構想の推進
② 地域連携による「自然との共生」の推進
③ 条件不利地域の自立・活性化の支援

このプランでは、②の「自然との共生」を推進するための基本的な考え方として、「都市住民が、地方における自然環境保護(森や水源の保全等)に関する実践活動に携わることを促進することにより、都市と地方のつながりを強化」することを挙げており、その具体的取組の一つとして「地域おこし協力隊」(2008年の段階では仮称)を挙げています。

こうして2009年、地域おこし協力隊の制度が発足します。総務省のWebサイト(注2)では、地域おこし協力隊は次のように紹介されています。

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域プランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期は概ね1年以上、3年未満です。

隊員はその任期の間、自治体から委嘱を受けて働き、これに対し、自治体からは報償費という形で毎月給与が支給されます。

初年度の2009年度は隊員数89名(31自治体)でスタートしましたが、令和元年度には全国で5,349名(1,071自治体)の隊員が活躍しています(図1)。

図1 地域おこし協力隊の隊員数及実施自治体数の推移

地域おこし協力隊の構想者のひとりである椎川忍は、協力隊制度が成功している要因として次の5点を挙げています(注3)。
(1) 若者の地方移住志向にうまくマッチした制度だったこと
(2) 3年間の仕事と生活費の保証のみならず、地域住民や地方自治体によるケアがセットとして提供されやすい制度として設計されたこと
(3) 若者の自己実現の欲求と地域のニーズのマッチングシステムができてきたこと
(4) 財政措置が補助金でなく(特別)交付税だったこと
(5) 我が国の出生率低下、人口減少、高齢化が顕著になり、特に一歩先を行く地方部での人口減少(社会減+自然減)が深刻な状況を生んでいたこと

上記の成功要因(1)の地方移住志向は「田園回帰」とも呼ばれています。ただ、明治大学農学部教授の小田切徳美によれば(注4)、都市住民の「田園回帰」は「必ずしも農山村移住という動向だけを指す狭い概念」ではなく、次の「3つの重層的な概念と認識」されると言います。図2は3つの概念の関係を示したものです。
①人口移動論的田園回帰
②地域づくり論的田園回帰
③都市農村関係論的田園会議

図2 3つの「田園回帰」(概念図)

小田切は、協力隊員は3つの概念に対応した「移住者」「地域サポート人」「ソーシャル・イノベーター」の3つの顔を併せ持っているが、人により比重が異なり、それが「多様な協力隊」という特徴につながっていると言います(注5)。それは応募理由にも反映されているとし、2017年のJOIN(移住・交流推進機構)によるアンケート結果(注6)を例に挙げ、協力隊への応募の最大理由(単一回答)の上位5つについて次のように分析しています。
(1) 自分の能力や経験を活かせると思ったから(15%)…「ソーシャル・イノベーター」志向
(2) 活動の内容がおもしろそうだったから(13%)
(3) 現在の任地での定住を考えており、活動を通じて、定住のための準備ができると思ったから(12%)…「移住者」志向
(4) 地域の活性化の役に立ちたかったから(11%)…「地域サポート人」志向
(5) 一度、地域(田舎)に住んでみたかったから」(10%)…「移住者」志向

地域おこし協力隊の制度は、誕生から12年が経過して課題も出てきていますが、前向きに運用されています。それは、協力隊員が多様な意思を持っているのと同様、受入地域の課題も多様であり、それぞれの関係に基づいて弾力的な運用が可能な制度であるからと言えます。

2)長浜市における地域おこし協力隊

長浜市においても、2015年から地域おこし協力隊員を募集し、現在3期までの隊員が活動を行っています。ただ、第1期と第3期を北部振興局地域振興課(今年度から“まちづくり推進課”に改称)が担当しているのに対し、起業型の協力隊とした第2期は市民協働部市民活躍課が担当する形をとっています。各部署の担当者にヒアリングした結果を紹介します。ただし、部署名は昨年のヒアリング時の名称としてあります。

北部振興局地域振興課

北部振興局の所轄する北部エリアは高月、木之本、余呉、西浅井の4町で、2019年10月1日現在の合計人口は23,389人。市全体の人口118,103人のほぼ2割にあたります。高月以外の3町では平成に入って人口が大きく減少(1990年19,859人→2015年14,297人)、また高齢化率の伸びも著しく、2019年には余呉で40%、木之本、西浅井で35%を超える状況になっています。もちろん、人口減少、高齢化の進展は北部地域だけの問題ではなく、長浜市全体としても2040年には人口が10万人を下回ると予測されています。

表1 長浜市及び北部振興局所轄4町の人口及び高齢化率(2019年10月1日現在)

こうした状況から、長浜市としても地域おこし協力隊の制度を活用することし、2015年度に第1期の協力隊を6名でスタートしました(任期3年間)。地域協力活動のテーマとしては、「自伐型林業の実践と普及」3名、「余呉湖の自然資源を活かした地域おこし」1名、「芸術による地域おこし」2名です。活動テーマは、受入地域の実情を考慮しながら、市の関係課と協議して決めています。

地域おこし協力隊の制度は、「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図ることを狙いとしています。そのため、任期の3年間は任期終了後の生業づくりの準備期間でもあります。任期中も、協力隊活動とは別に「副業」することも認められています。

協力隊員が地域で馴染めるように、市として「生活支援」を行っています。住居探しや受入自治会等とのつなぎを行うほか、住み始めてから生じるさまざまな問題について相談を受けています。また、協力隊員としても、地域の清掃作業や地域の祭り等への協力(準備・司会等)などにも積極的に関わっています。さらに、「活動支援」として各地域の支援団体が、生産者や加工業者などの地域の人とのつなぎや事業そのものの手伝いなどの対応をしています。

第1期の協力隊員については、6名全員が任期を全うし、任期が終わった後も地域に残って住み続けるという選択をしています。その後女性1名は結婚により県外に移住しますが、第1期全体としては申し分ない成果を上げたということができます。

協力隊員の活動を通じて地域にもたらされた変化として、北部振興局の担当者は次の2点を挙げています。
① 第一に、地域外からやって来た協力隊員が、地域の人では気づかないような地域の魅力をピックアップし、また地域内外へPRすることにより、地域に住む人にとっても改めて自分達の地域の魅力を再確認できるキッカケになっていると思います。
② 協力隊員の存在はひとつのキッカケにすぎないとしても、それにより地域の魅力を残そうというような地域活動の輪がいろんなところで広がっているというのは、地域にとって大きな変化であると認識しています。

昨年の「長浜魅力づくりプロジェクト」では、第1期終了者のなかから、「芸術による地域おこし」を担当された植田淳平さんにインタビューをさせていただきました。次回は植田さんのインタビューを紹介していきます。

第1期のメンバー 左から3人目が植田淳平さん, 長浜市北部振興局提供

ちなみに第3期も6名の隊員を採用しています。5名が2018年からの3年間、1名が2020年からの3年間です。ミッションとしては、「自伐型林業」3名、「古民家や空き家の利活用」1名、「農業水産資源を活用した特産品開発」1名、「茶畑再生による地域活性化」1名です。

市民協働部市民活躍課

第2期の協力隊員の募集は、地域資源を価値に変える創造性を持った人材が地域に少ないのではないかという問題意識からスタートしています。その部分を担う協力隊員がいれば、その活動を通じて市民が長浜市の良さを再確認することで愛着と誇りを醸成し、地域活動に携わる人口が増加し、その結果自助、共助、公助のバランスが取れ、持続可能になるというシナリオです。そこで、市民活躍課は第2期の募集にあたり、「若者たちが活躍できる街を創る」というオリジナルの目標を加え、市が提案するプロジェクトに対して事業化や起業を目指す、起業型地域おこし協力隊として2017年に募集を行いました。

募集事業内容と最終的に採用した人数は以下のとおりです。
「暮らしリサーチャー」3名:昔の暮らしの中から災害への準備に関して地域に眠る知恵を見つけて、長浜の暮らしを PR してほしいというプロジェクト。3名とも任期途中で退任。
「伝統ウィ―パー」2名:長浜の伝統産業を新たな感性で未来に紡ぐプロジェクト。
「観音キーパー」1名:長浜の地域資源である観音文化を地域内外に発信していくプロジェクト。
「エクスペリエンスメーカー」1名:地域の良いものをうまく繋げて体験型のコンテンツにできないかというプロジェクト。
「クリエイティブ大工」1名:家具やクラフトのデザインで木の魅力を伝えながら、クリエイティブ人材を育成する学校設立プロジェクト。

起業型ということで、定住・定着という目標以外に、当初の目標に沿って起業するということも一つの成功基準になります。そこで起業のための協力隊員への支援も行っています。発生する課題に一貫した支援を行ったり、隊員同士をつないで新たなプロジェクトを創出したりする「ハンズオン支援」ができる指導者、メンターを設置し、目標達成に向けた支援を行っています。また中間支援組織としての長浜ビジネスサポート協議会と連携し、協力隊を支援する体制としています。その他にも活動費用や起業に関する費用の補助と言った金銭的な支援を行っています。

図3 第2期協力隊員への支援体制

ただ、起業型ということもあり、地域から求められての受け入れではなかったことから、地元との関係を築くために、非常な苦労を隊員に強いる部分もありました。今後は起業型人材を必要とする地域のリサーチを事前に行う等の改善点が挙げられています。

また、地域資源を活用して起業することが目標となるので、地域に馴染むことももちろん重要ですが、地域で活動している人との連携が不可欠となります。ところが、合併して広域化したことで地域資源も様々なものがあり、活動されている方も多岐にわたることから、そもそも市内のプレイヤーの人たちとの連携も取れていないという課題もありました。

結果として、任期を全うした5名のうち4名が定住して起業しており、成果としては申し分ないものとなっています。

昨年の「長浜魅力づくりプロジェクト」では、第2期終了者のなかから、「観音キーパー」を担当された對馬佳菜子さんにインタビューをさせていただきました。次々回は對馬さんのインタビューを紹介していきます。

新たな募集に向けて

我が国における地域おこし協力隊の制度も12年目を迎え、課題もみえてきました。図1に示すように、令和元(2019)年度の実施自治体数は前年度より10増えているのに、隊員数は5,349名で前年度より10名減少しています。これは任期途中で辞める隊員が増えている中で、採用数を抑えた自治体があったためと考えられます。そこで、いきなり3年ということでなく、2泊3日から1週間程度で地域おこし協力隊を体験してみるおためし制度を活用することで、受入地域、受入自治体、協力隊のミスマッチを防ごうという「おためし地域おこし協力隊」という制度を総務省がつくっています。

長浜市では、この制度をベースにした「長浜おためしワークステイ」という、移住前に田舎暮らし体験ができる機会をつくり、2020年9月23日から11月30日にかけて実施しました。3名の方が参加しました。今年も9月1日から11月30日にかけて「長浜おためしワークステイ」を実施する予定で、7月5日から募集を開始しています(募集締め切りは8月15日)。(詳細は“長浜市”の募集ページを見てください)

“長浜市”募集ページ, https://www.city.nagahama.lg.jp/0000010280.html

こうした取り組みを経て、長浜市では今年も地域おこし協力隊の募集を行いました。年内には新たな仲間が誕生する予定です(注7)。

さて、次回は第1期協力隊員で、現在合同会社MediArt代表社員の植田淳平さんのインタビューをお届けします。

(次回に続く)

〔注記〕

(注1)「地域力創造プラン(鳩山プラン)~自然との『共生』を核として~」総務省, 2008.(https://www.soumu.go.jp/main_content/000011046.pdf

(注2)「地域おこし協力隊」総務省.(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/02gyosei08_03000066.html

(注3)椎川忍・小田切徳美・佐藤啓太郎・地域活性化センター・移住・交流推進機構『地域おこし協力隊 10年の挑戦』農山漁村文化協会, 2019, p.5-7.

(注4)上掲書, p.298-300.

(注5)上掲書, p.302-303.

(注6)株式会社価値総合研究所「平成29年度 地域おこし協力隊に関する調査 調査研究報告書」一般社団法人移住・交流推進機構, 2018-02.(https://www.iju-join.jp/material/files/group/1/JOIN_report_201804_2.pdf

(注7)「【募集終了】滋賀・長浜市が『地域おこし協力隊』を募集中!現役・OBの体験談から『協力隊のリアル』を特集」長浜経済新聞, 2021-05-25.(https://nagahama.keizai.biz/tieup/1/

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