選挙管理委員会は何をしているかご存じですか?~2018年長浜市議会議員選挙を例に~

【写真1】明るい選挙推進啓発用ポスター 令和2年度小学校の部 最優秀賞(滋賀県)(注1)

by 松島悦子

今年は衆議院議員の任期満了の年で、総選挙が行われます。市町村においても、7月の東京都議会議員選挙、8月の横浜市長選挙などたくさんの選挙が行われています。

昨秋のアメリカ大統領選挙で、暴徒化したトランプ支持者が根拠なく「選挙は盗まれた」として連邦議会議事堂を襲撃した事件は、世界を震撼させました。日本では、戦後、選挙違反が増大し、数万人の検挙者を出したこともありましたが、規制強化や選挙管理委員会の設置、公正な選挙を推進する市民運動(注2)によって、選挙違反は減少してきました(注3)。しかし、現在も頻発しており、つい先日も、100人もの人に計2,900万円を配った買収事件で、元法務大臣が懲役3年の実刑判決を受けました。

選挙は民主主義の根幹のひとつであり、選挙を公正に行うことが健全な民主主義社会をつくります。よりよい生活を実現するために、自分ごととして選挙に関心を持つことが重要です。ましてやコロナ禍では、だれを選ぶかが命や財産を守ることに直結するのですから。

そこで、2018年から2021年の3月まで、長浜市選挙管理委員として4つの選挙に関わった私の経験から、2018年に行われた長浜市議会議員選挙に注目して、選挙がどのように行われ、公正性を守る努力がはらわれているかをご紹介したいと思います。

なお、ここでお伝えする内容は私個人の体験に基づく見解であり、長浜市選挙管理委員会を代表するものではありません。

(1)選挙管理委員会の役割

選挙を実施するにあたって、守られなければならない重要なことは、「選挙の平等」「投票の自由」「選挙の公正」の3原則です。すなわち、18歳以上の国民に平等に選挙権が与えられ、自分の意志による自由な投票が保証され、選挙が公正に行われることです。公職選挙法では、選挙運動の期間や費用の制限、あるいは18歳未満や特定公務員等の選挙運動の禁止など、選挙の公正を確保するために多くの規定を設けています。法律に則って選挙を管理・執行するのが選挙管理委員会(以下、選管)です。今年3月まで長浜市選挙管理委員として4つの選挙に関わった経験から、公職選挙法にしたがって、驚くほど手間と時間をかけて選挙が執行される実態をご紹介しましょう。

【写真2】2021年3月1日長浜市選挙管理委員会定例会 一瞬マスクを外して撮影

まずは、選管が、どのような組織で何をしているのかを説明します(注4)。

選管は、都道府県と市区町村に別々に設けられていて、各議会で選ばれた4人の委員(任期4年)で構成される常設機関です。私も、長浜市議会議長から「当選の告知」をいただきました。今期3月までは、女性2人と男性2人(うち一人は委員長)で構成されました(写真2)。選管の職務を補助執行するために、長浜市職員による事務局が置かれています。

選管の主な職務は、選挙事務全般の管理で、「都道府県選管」は衆参(選挙区選出)両院議員選挙、知事および都道府県議会議員選挙などを管理し、「市町村選管」は市町村の長および議会議員の選挙などを管理します。重要な仕事のひとつが、「選挙人名簿」を作成することです。市民が選挙で投票するためには、その市町村に住所を持つ、満18歳以上の日本国民で、この名簿に登録されていることが必要です。住民基本台帳を基に、3月、6月、9月、12月に定時登録をし、選挙の際には選挙時登録をします。そのほか、市民への啓発活動や、他の市町村選管との連絡協議会や研究会への参加などもあります。また、中央選挙管理会という総務省に置かれる特別な機関があり、衆参の比例代表選挙と最高裁判所裁判官の国民審査の管理を行っています。

私が長浜市選管の委員として携わった選挙は、滋賀県知事選挙(2018年6月16日)、長浜市議会議員選挙(2018年7月22日)、滋賀県議会議員選挙(2019年4月7日)、および参議院選挙(2019年7月21日)です。

市民への啓発活動の一環として、小中高などの各学校種で、選管の出前授業による主権者教育が行われています。学校教育では、中学校社会科「公民」で選挙の基礎的な内容を学び、高等学校公民科「現代社会」には、選挙の意義や社会との関わりについて考えるような深い学びがカリキュラムに含まれています。2016年から選挙権が18歳以上となり、ほぼすべての高等学校で主権者教育が取り組まれ、そのうちの4割以上が選管との連携で実施されていました(2020年選挙管理委員会による全国調査)(注5)。私も、2019年に高校生の模擬選挙を見学させていただきました。写真3は、模擬選挙を行うために、高校の体育館に設置した投票場です。本番さながらの投票箱と記載台、投票用紙を用いて、高校生たちは緊張した雰囲気の中、静かに並んで順番に投票していました。

【写真3】選管による高校への出前授業、疑似選挙の投票所
(2)選挙はどのように行われるのか~市議会議員選挙を例として~

選挙の中でも、市民にとって最も身近な市議会議員選挙に注目します。ここでは、2018年7月22日に実施した長浜市会議員選挙をふり返ってみます(注6)。

①投票日までの準備

7月31日の任期満了に伴い、長浜市議会議員一般選挙が行われました。それに先立って、3月31日の選管の会議で「選挙期日」(7月22日)と「告示日」(7月15日)を決定しました。立候補する人は、届出の際にたくさんの複雑な書類を提出しなければなりません。しかも選挙の告示がされたその日中に届出をしなければならないため、事前に、立候補予定者への説明会が設定されます。その日程(5月29日)と場所(市民交流センター)も決めました。

立候補予定者の説明会では、届出に必要な書類(注7)や、供託金(注8)などの説明をします。「供託」は、売名など無責任な立候補を防止するための制度で、得票数が規定数に達しない場合や、候補を辞退した場合は全額没収されます。選挙運動の方法や禁止されていること、選挙費用などについても説明します。

その後、選挙人名簿を作成し、公営ポスター掲示場の設置場所、各投票区の投票所の指定、投票管理者と投票立会人の選任、投票記載所の氏名等の掲示順序を定めるくじを行う日時や場所、期日前投票所の場所と期間、投票管理人と立会人の選任、不在者投票に関すること、開票の日時と場所、開票管理者と立会人の選任、といった選挙を行うために必要な重要事項をすべて、選管の会議で決定します。

今回、届出が受理され、候補者となった人は29人。投票日の前日まで選挙運動を行うことができます。公正性を担保するため、公営ポスター掲示場にポスターを貼る区画ついては、立候補の届出順で決まります。選挙公報に記載される順番と、投票記載所に掲示される氏名や政党名の記載順序は、候補者に代わって選挙管理委員がくじ引きをします。長浜市の場合は、おみくじのような、木箱にくじ棒を入れたものを用いています。

②期日前投票所で行われること

期日前投票制度とは、投票日前でも、投票日と同様な方法で投票できる仕組みのことです。選挙は投票日に投票することを原則としますが、当日に仕事や旅行、レジャー、冠婚葬祭などで、投票に行けない場合に投票ができます。投票日に台風が来ることが予想されていたり、コロナ禍で感染を避けるためであったり、買い物や市役所に行ったついでに行きたいときや投票日当日の投票所は行きにくい・行きたくないといった場合でも投票が可能です。投票期間は、告示日あるいはその翌日から投票日前日までで、選挙によって異なります。市議会議員選挙の場合は1週間程度、衆議院や参議院選挙の場合は2週間程度と長くなります。

長浜市では、期日前投票場所は10か所設けられ、有権者の多くは投票日当日に投票を行いますが、最近は、時間と場所の制約が少ない期日前投票制度を利用する人が増えてきました。

投票時間は原則として朝8時半から夜8時まで。投票所の管理体制は、投票管理者と立会人2名、受付事務2・3名、事務局の市職員1・2名で構成されます。私も7月20日、市役所本庁の期日前投票所で投票管理者として、有権者の投票行動を見守りました。小さい子どもを連れた人や高齢の人、仕事着のまま手際よく投票する人、車いすで来られた人、夕方6時以降は市役所の職員や仕事帰りの若者たちなど、様々な有権者が訪れます。緊張した様子で投票所に入ってくる人が多いので、私たちは笑顔で挨拶し明るい雰囲気にするよう努めました。11時間半という長時間、じっと座り続けての勤務は、実際、相当疲労がたまります。選挙管理委員は、投票状況を確認するために各投票所を巡回し、投票管理者と関係者のご苦労をねぎらいます。どちらの投票所を訪れても、嬉しそうに迎え入れてくださったことが、この仕事をしてよかったと感じたことです。

投票の管理執行に関して、長浜市役所本庁では旧長浜地域の面白い慣例やルールが引き継がれていました。例えば、朝、投票所を開く際に、関係者は全員起立し、投票管理者は時計の秒針を確かめながら定刻に鐘をチンと鳴らし、開始の決められた文言を読み上げます。投票管理者としては、なぜか緊張する儀式でした。閉所時も同様にします。閉所後、投票箱に鍵を2つかけ、別々の封筒に入れ、厳格に封印するという作業を毎日行います。
投票日の朝は、投票箱が空であることを確かめますが、その役割は、一番乗りの市民に託されます。そのために、早くから来ている人がいるということを聞きました。

③開票所で行われること

投票日当日の投票が終了すると、市内各投票所から管理者によってすべての投票箱が開票所に届けられます。長浜市の開票所は1か所で、長浜市民体育館で行われます(写真4)。各投票所の投票管理者は、地域で朝からの投票管理の仕事を終え、タクシーで投票箱を運びます。この役割は大変責任が重いので、東京都新宿区では、タクシーに警官が同乗するそうです。タクシーが次々到着し、投票箱を抱えた投票管理者が緊張気味に足早に体育館に入ってきます。選挙管理委員は、投票管理者を迎えて感謝の意を伝えます。投票箱がすべて集まったことを確認し、21時35分から開票が始まります。深夜にかけて休みなく集計が続き、完了後に「選挙会」という会議を開催し当選者を決定します。決定が明け方になるときもあります。その後、結果を公表するといった流れで進みます。

【写真4】開票前の長浜市体育館

7月22日の市議会議員選挙の当日は、真夏日で日中の気温は35℃、夜になっても気温が下がらず大変蒸し暑い日でした。冷暖房設備のない体育館で、投票用紙が紛失するのを避け、窓やドアは締め切った状態で行われます。実際に開票作業をするのは100人ほどの市職員で、首に巻いたタオルで汗を拭き拭き黙々と開票作業をします。半袖ワイシャツ姿の男性がほとんどで、女性は1~2割程度。広い体育館の中を、投票用紙を入れたプラスチック箱を抱えて縦横に動き回るためか、ほとんどの人がスニーカー履き。水分を摂るコーナーは、開票場の入り口に設けられ、頻繁には行きにくい。締め切った蒸し暑い体育館の中で、職員の皆さんが熱中症にならないかと心配して作業を見守っていました。

開票作業は、選挙長の開票合図で始まり、体育館の中は独特の緊張感と熱気に包まれます。皆が一斉に動き出し、投票箱の鍵を開けて、すべての投票用紙を取り出します。一方、選管と開票立会人(注9)は、空になった投票箱を本当にカラになっているか隅々まで確認します。

取り出した投票用紙を卓球台の上に広げ、まず、点字の投票用紙を見つけ出し、残りの投票用紙をそろえて機械に投入します。機械は、記載された候補者の名前を読み取り、候補者ごとに投票用紙を仕分けし、それぞれ集計します。機械が読み取れなかった投票用紙ははじかれ、人の目で読み取り、難読の場合はルールブックを用いて複数の人が時間をかけて判断します。難読の投票用紙を1枚1枚解読していく作業は、人手と時間がかかる大変な仕事です。なお、投票用紙に候補者の氏名(参議院比例では氏名か政党名)以外のことを書いた場合、無効となります。

集計した投票用紙を決められた枚数ごとの束にし、開票立会人は投票用紙すべてに目を通して押印し、それを選挙長が最終点検して押印し、各候補者の得票数を確定します。もし、有権者数と集計数、実際の投票用紙の枚数が1枚でも合わない場合は、何度でも数え直します。

また、その選挙の有権者であれば、開票作業を参観することが可能です。体育館2階に場所を設け、10人ほどの市民が参観していました。新聞記者も数人取材に来ていて、メディア席で参観していました。開票中、一定時間ごとに途中集計結果が、紙ベースで報告されました。

④当選者の確定の仕方

得票数が確定すると、職員の皆さんは、開票で使用した机やいす、床のマットなどを協力して元気よく片付けてくれます。選管は選挙会という会議を開き、立会人とともに当選人を決定し、公表します。終了後、すべての投票用紙を段ボールに入れ、立会人が段ボールのすべての面に割り印をして封印します。書類に全員がサインをして、やっと明け方近くに終了です。無事に任務を終え、安堵と充実感に満たされる瞬間です。

開票にかかる時間は選挙によって大きく異なります。参議院選挙は、候補者の人数が多く、比例代表制では政党名と候補者氏名が混在し、集計に時間がかかります。2019年の参議院選挙では、さらに、決定箋に記載ミスがあったことで確定までに時間がかかり、帰宅は朝の6時を回っていました。

7月24日、市役所の上階にある委員会室で、選挙管理委員長が当選者に当選証書を付与しました。晴れて、26人の市議会議員の誕生です。

【写真5】長浜市役所本庁の駐車場から見た虹

以上のように、投票と開票にかかわるすべての管理・執行が選管の仕事です。公平性・平等性を確保するため、公職選挙法に基づく選挙制度にしたがって選挙を執行します。前述した、掲示場のポスターの位置や投票記載所の名前の順序、選挙公報に掲載される候補者の順番、立会人制度、開票の手順、難読投票用紙の対処法など、方法や手順の詳細まで公職選挙法や条例で規定されており、それを選管が手間と時間をかけて忠実に執行します。すなわち、選挙の管理・執行に係る厳格性が、公正な選挙を支える柱となっています。

ここでは、市議会議員選挙の一部始終を紹介しましたが、2018年の滋賀県知事選挙、2019年の滋賀県議会議員選挙、参議院選挙も、ほぼ同様に執行されました。

今年の衆議員選挙では、感染対策が必須です。すでに、総務省より感染症への対応について連絡があり、出入り口に消毒液の設置、定期的な換気、混雑防止に関する情報提供などを行わなければなりません(注10)。通常の選挙にもまして、管理・執行の厳格性が問われます。

健全な民主主義社会を作るための今後の課題として、投票率を上げることが急務です。政治への信頼を取り戻すことは重要ですが、選管の任務として、投票環境の向上が重要な案件となっています。次回は、長浜市の投票環境向上のための取り組みについて紹介します。

注-------------------

(注1)冒頭の写真1は、明るい選挙推進協会が行う啓発用のポスターコンクールで、令和2年の滋賀県小学校の部で最優秀賞に選ばれたポスター。審査は選管が行った。滋賀県におけるポスターコンクール審査結果は、滋賀県選挙管理委員会ホームページで公表されている。
https://www.pref.shiga.lg.jp/senkyo/akaruisenkyo/317076.html(2021年7月13日参照)

(注2)公正な選挙を推進する市民運動は、「明るい選挙推進運動」に引き継がれている。「明るい選挙」とは、有権者が主権者としての自覚をもって進んで投票に参加し、選挙が公明かつ適正に行われ、私たちの意思が正しく政治に反映される選挙のことをいう。各地の選挙管理委員会と明るい選挙推進協議会が連携・協力しながら明るい選挙の実現を進めている。明るい選挙推進協議会は、全国の都道府県・市区町村の明るい選挙推進協議会を会員とした公益財団法人で、全国約8万人のボランティアとともに活動している。
明るい選挙推進協議会ホームページ http://www.akaruisenkyo.or.jp/(2018年7月13日参照)

(注3)日本の選挙制度に関する歴史的経緯は以下の文献にまとめられている。
   明るい選挙推進協会、2020、「明るい選挙推進運動のあゆみ」『Voters』 58、4-6.

(注4)選挙管理委員会の組織、役割、選挙制度については以下の通り。
    明るい選挙推進協会、2016、『暮らしの中の選挙』(平成28年10月改定版)

(注5)南雲直樹、2020、「選挙管理委員会による主権者教育に関する調査の概要について」『選挙時報』69:11、1-11

(注6)長浜市議会議員選挙については、選挙管理委員会の2018年度の会議資料を参照

(注7)届出に必要な書類は、候補者届け出書、供託証明書、宣誓書、所属党派証明書、戸籍謄(抄)本、通称認定申請書、選挙事務所設置届、出納責任者専任承諾書、事務員・車上運動員・手話通訳届出書、選挙公報掲載申請書など。選挙運動用ポスターの見本1部。

(注8)供託金は、一定額の現金または国債証書で、法務局に預ける。指定都市以外の市区議会の供託金は30万円。
衆議院小選挙区と参議院選挙区は300万円、衆議院及び参議院の比例代表は1名につき600万円、都道府県知事300万円、都道府県議会60万円、指定都市以外の市区長100万円など。

(注9)開票立会人の決め方については以下の通り。
候補者は、選挙人名簿に登録された者の中から本人の承諾を得て1人を定め、選挙期日前3日までに、選挙長に「選挙立会人となるべき者の届出書」を届け出る。10人を超える場合は10人に制限するくじを行い、さらに同一政党その他の政治団体に属する候補者からの届出に係る者が3人以上あるときは、2人までに制限するくじを行う。

(注10)選挙における感染対策に関する情報は以下の通り
総務省自治行政局選挙部管理課、2021、「選挙の管理執行における新型コロナウイルス感染症への対応について(令和3年1月8日)」『選挙時報』 70:2、72-74
総務省自治行政局選挙部管理課、2021、「選挙の管理執行における新型コロナウイルス感染症への対応に伴う選挙人への情報提供について(令和3年1月22日)」  https://www.soumu.go.jp/main_content/000729546.pdf(2021年7月13日参照)

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