「純米吟醸 長濱」を生んだ長浜人の地の酒プロジェクト(3)学生によるプロモーション活動
by 松島三兒
今回は、長浜バイオ大学の学生たちが「純米吟醸 長濱」のプロモーションにどのように関わったかを見ていきます。
1.一粒のお米がお酒になるまでのプロセスを学ぶ
プロジェクトに2年次生の学生たちが参加することになった経緯は初回の投稿に書きました。せっかく一粒のお米がお酒になるまでのプロセスを学ぶのですから、ただ学ぶだけでなく、関心を持った学生には学びから得たものをプロモーションという形で活かしてもらいたいと考えました。そこで、2年次以上の学生を対象とした自主活動として「地の酒プロジェクト」を立ち上げて、4月から酒米栽培と酒造プロセスを学んでもらい、そのなかでプロモーション活動にも関心を持った2年次生には後期のキャリア授業「長浜魅力づくりプロジェクト」を履修してもらい、プロモーション活動を企画・実行してもらうことにしました。
(1)米作りを学ぶ
吟吹雪の栽培を担当する百匠屋・清水大輔さんにお願いし、2014年から2019年までの6年間に亘り米作りに関わる作業の一部(図1の緑色の網掛け部分)を学生たちに体験させてもらいました。
- 種子消毒
滋賀県では現在、水稲種子消毒に温湯浸漬処理が用いられています。以前は滋賀県でも化学農薬を用いて種子消毒を行っていました。しかし、1980年代以降環境と調和した農業を目指すなかで、化学農薬、化学肥料の使用量を半減した「環境こだわり農業」による水稲栽培を推進してきたことから、化学農薬を用いない種子消毒体系を確立する必要がありました。1999年から数種類の種子消毒法の実証試験が行われ、その結果、60℃10分間処理の温湯消毒の有効性が示されました(注1)。近年はイネばか苗病を含む広範な病害に対して有効な微生物農薬(トリコデルマ・アトロビリデ水和剤)も普及しており、ここ数年は清水さんのところでも温湯消毒から微生物剤処理に切り替えています。
- 種まき・箱並べ
種まきは、水稲用の全自動播種機を用いて行っています。作業の流れと学生による作業風景をそれぞれ写真と動画で示します。
育苗ハウスへの発芽トレイの箱並べの作業風景も動画で示しておきます。
- 田植えと稲刈り
作業自体を体験するだけでなく、特に2年目、3年目の学生は一般参加者向けイベントの企画・実行も担いました。初年度のイベントは黒壁AMISUが担当しましたが、同店の店舗数増加に伴う業務増により2年間は学生たちが担当することになったものです。学生たちにとっては限られた予算のなかで、「長浜人の地の酒プロジェクト」のキーメンバーとの話し合い、調整を通じての企画・実施となり、良い体験ができたと思います。いくつか紹介しておきます。
(2)酒造りを学ぶ
プロジェクト1年目となる2014年のメンバーは、冨田酒造・冨田泰伸さんのご厚意により仕込み作業の一部とラベル貼りを体験させていただきましたが、仕込みの忙しい時期でもあることから2年目以降は作業の見学のみとしました。
ワインは、糖分の高いブドウの搾汁を酵母で発酵させる「単発酵」、ビールは麦芽の酵素で大麦のデンプンを糖化し、得られた糖液(麦汁)に酵母を加えて発酵させる「単行複発酵」(下図参照)。
一方、日本酒は米と米麹を用いて、米のデンプンの糖化と酵母によるアルコール発酵を同時に一つのタンクで行う「並行複発酵」。日本酒の発酵終了時のアルコール濃度は約20%で、他の酒類の発酵終了時のアルコール濃度と比べ極めて高い値となっています(注2)。糖化によりできたブドウ糖の濃度が高くなりすぎると酵母の働きが低下してしまいますが、清酒モロミの発酵過程では、糖化工程で生成したブドウ糖が、アルコール発酵によりただちに消費されます。このように糖化と発酵が同時にバランスよく進む「並行複発酵」の仕組みが日本酒の高いアルコール濃度を実現する主要因となっています(注3)。
2.「純米吟醸 長濱」のプロモーションを企画・実行する
プロモーション活動は、お金も時間もかかるため自主活動とはせず、キャリア授業「長浜魅力づくりプロジェクト」として実施しました。
(1)プロモーション動画の作製
2014年度(1年目)に参加した学生たちは、「純米吟醸 長濱」の訴求力向上に向け、プロジェクトメンバーの想いを動画にして発信しました。黒壁AMISU店頭にて、初年度の試飲の際にお客様に観ていただきました。
(2)地の酒フェスタの開催
2015年度から2017年度にかけて参加した学生たちは、滋賀のお酒の魅力を訴求するなかで「純米吟醸 長濱」の良さを知ってもらう方法をとりました。近年、日本酒のマーケットが縮小(図2)しているうえ、学生たちと同世代の若年層では他の年代層よりも日本酒を飲む機会が少ない傾向(図3)があります。こうした状況下では、「純米吟醸 長濱」のみを訴求するよりも、滋賀の搾りたての日本酒の美味しさを知ってもらい、そのうえで「純米吟醸 長濱」の良さを知ってもらうのが効果的だと考えました。
また、若年層を主対象とするのであれば、ビアフェスのような開放的な空間での試飲会が望ましいと考え、長浜市中心市街地の、長さ250mに及ぶ大手門通りを会場として「地の酒フェスタ」を開催することとしました。大手門通りの使用にあたっては、当時大手門通り商店街振興組合理事長であった富田浩徳さんに関係自治会への協力依頼、曳山博物館の南側空地の利用調整等を含め、全面的にお世話になりました。なお、最終年となる2017年度は曳山博物館西側のパウビル1階が13番街区の再開発決定により空室となったため、ビル管理者の株式会社新長浜計画の協力を得てビル1フロアを会場として使用させていただくこととなりました。
さて、250mの通りを有効に活用するためには、県内の酒造会社の協力が欠かせません。1年目は喜多酒造蔵元の喜多良道さんに協力いただけそうな蔵をいくつか紹介いただき、そこを中心に協力依頼を広げていきました。3年間で出店に協力いただいた酒造会社および大学は以下のとおりです。参考までに2015年度の会場見取り図も載せておきます。
表1 地の酒フェスタに出店協力いただいた酒造会社および大学
なお、地の酒フェスタは、2015年度は1月16日、17日の2日間開催。2016年度も1月14日、15日の2日間開催予定でしたが、大雪警報のため14日のみに短縮しました。2017年度はビルのフロアを会場として借りた関係もあり1月14日のみの開催としました。
2015年度と2017年度のフェスタについては、長浜市のインターネット放送局「STUDIOこほく」の取材映像があるので、それを載せておきます。2016年度については活動の様子がわかる写真を示しておきます。
(3)訴求用リーフレットの作製
2018年度末をもって「長浜人の地の酒プロジェクト」が満5年となりました。2019年度のキャリア授業「長浜魅力づくりプロジェクト」では、『滋賀酒 近江の酒造めぐり』(サンライズ出版, 2018年)を執筆された家鴨あひるさんから日本酒の基本を学び直したうえで、「長浜人の地の酒プロジェクト」の主要な関係者に「純米吟醸 長濱」への想いを改めてインタビューさせていただき、それを店頭配布用のリーフレットとしました。
異なる蔵で同じブランドの日本酒を競作する取組は珍しく、蔵による味わいの違いを楽しむのは、ある意味贅沢な飲み方と言えます。造り手の想いを知ったうえで飲んでいただくと蔵の特徴がより見えてくるのではないかと思います。
2019年度に製作したリーフレット(二つ折り)を下に載せておきます。
今回は以上です。次回は、いよいよ最終回となります。今後も含め、主力メンバーのプロジェクトにかける想いをまとめます。
(最終回に続く)
(注1)重久眞至・金子誠[2008]「イネ栽培における環境こだわり農業推進のための減農薬技術」『植物防疫』, vol.62, no.5, p.8-12, (2021年9月17日取得, http://jppa.or.jp/archive/pdf/62_05_08.pdf).
(注2)発酵終了時(蒸留酒は蒸溜前)のアルコール濃度は、日本酒が約20%であるのに対し、焼酎(イモ類、黒糖)約14%、ワイン約11%、ウイスキー約5~8%、ビール約5%
(注3)月桂冠[2021]「糖化と発酵を同時にバランスよく進め、高いアルコール分を生み出す発酵の仕組み」月桂冠ホームページ, (2021年9月18日取得, https://www.gekkeikan.co.jp/enjoy/sake/brewing/brewing05.html).
(注4)国税庁課税部酒税課[2020]「酒のしおり(令和2年3月)」国税庁ホームページ, (2021年9月18日取得, https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2020/pdf/200.pdf).
(注5)日本酒造組合中央会[2017]「『日本人の飲酒動向調査』を発表」日本酒造組合中央会調査リリース, (2021年9月18日取得, https://www.sakagura-press.com/wp-content/uploads/2017/05/%E3%80%90%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%85%92%E9%80%A0%E7%B5%84%E5%90%88%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E4%BC%9A%E3%80%91%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9.pdf).