「純米吟醸 長濱」を生んだ長浜人の地の酒プロジェクト(4)〈最終回〉プロジェクトのいま、そして今後

by 松島三兒

今回は、プロジェクトの主要メンバーがどのような想いを持って活動に取り組んできたか、そして今後に向けてどのような想いを持っているかをみていきます。

2016年稲刈りイベントにて 2016年10月2日 筆者撮影

「長浜人の地の酒プロジェクト」の3年目からは、山岡酒造蔵元の山岡仁蔵さんも加わり、同じ銘柄を2つの蔵が造ることになりました。同じ田んぼで作られた酒米をそれぞれの匠がどう料理するか。前回も述べたように、私たちにとっては二人の匠の技の違いを味わうことができるという非常に贅沢な状況が生まれたわけです。世のなか地酒はたくさんありますが、異なる蔵が同じブランドを造るという状況はめずらしいのではないかと思います。

そうしたこともあり、匠の技の粋を集めた「純米吟醸 長濱」は、2015年1月の発売以来評判を呼び、毎年シーズンの終了を待たずに完売するまでに成長しました。

今回は、プロジェクト発足6年目を迎えた2019年に主要メンバーに行ったインタビューをもとに、メンバーがプロジェクトにどのような想いを持って活動に取り組んできたか、そして今後に向けてどのような想いを持っているかを見ていきます。

百匠屋・清水大輔さん 2015年9月26日 筆者撮影

米作りを担当する百匠屋の清水大輔さんは、異常気象が続く中で毎年戦いだと言います。台風の来る時期により被害の程度も異なるため、清水さんのように10ヘクタールを超える規模で稲作をやっているところでは対策も容易ではありません。しかも、吟吹雪は早生品種などと異なり生育期間が長いため、余計に影響を受けやすいと言います。

米作りには苦労もありますが、同じ吟吹雪を使っても2つの蔵で造られる「長濱」の味わいが異なることに、清水さんは改めて日本酒の奥深さを感じています。「冨田さんのところのお酒はしびれるというかガツンと来る。吟吹雪を使うと玉栄よりも少し柔らかくなると思うが、冨田さんのお酒は七本鎗のシリーズと似て吟吹雪でも力強さが出ている。一方、山岡さんのところはよりまろやかな仕上がりになっていて、やはりそれぞれの蔵の特徴が出ている」

清水さんはプロジェクトへの想いを次のように語ってくれました。「自分はお酒の造りにはタッチできないが、美味しいお酒になるようなお米作りをしたいという思いはずっとある。天候自体はどうすることもできないが、水や肥料の管理を通して健康な米作りを目指し、プロジェクトに関わり続けていきたいと考えている」

冨田酒造・冨田泰伸さん 2019年11月1日 筆者撮影

冨田酒造蔵元の冨田泰伸さんは、プロジェクトに参加した当時を振り返って、「『長濱』というのはすごい名前だ。これこそ長浜だというものを造る覚悟がいると思った」と語ります。「『長濱』の個性は味だけではない。味は絶対的な要素だけれどそれだけではない。『長濱』の個性はそのストーリ―性にもある。今のお客さんが、ちょっと高くても買おうかなと思うのは共感するから。だから4者が連携して造っている『長濱』にお客さんは価値を見いだしてくれている」

30年前のお客さんであれば居酒屋に行っても、「お銚子1本」と頼むが中身は気にしない。銘柄を選ぶという感覚はありませんでした。しかし、若い蔵元が後を継いだ小さな蔵が地域に目を向け、個性のあるブランド作りを志向するなかで、お客さんのお酒の選び方も変わりつつあると言います。確かにここ10年余の間に清酒出荷量に占める特定名称酒の割合は急増しており(図1)、銘柄を選ぶお客さんが増えていることを示しています。一方、大手の酒造会社は量販店向けの紙パック化など低価格化を志向して製造量の9割が普通酒となり、そこから抜け出せなくなっています。

図1 特定名称酒の課税移出数量の推移(注1)

冨田さんは、地域に目が向いている今は、小さな蔵に追い風が吹いていると感じています。実際、こだわればこだわるだけの反応があり、昔より今のほうが仕事をしやすいと言います。酒蔵の数は全国的に減少しており、滋賀県でも冨田さんが蔵に戻った2002年には64軒あった酒造組合登録の酒蔵も33軒にまで減りましたが、若い蔵元が帰ってきたところが多く、今後は大きくは減らないだろうということです。

さて「長濱」ですが、他の地域と異なって販売主体が企画したこともあり、販売自体は順調に推移しています。冨田さんは、今後より多くの人に「長濱」を楽しんでもらうため、普段ワインを飲んでいる人に「長濱」を味わってほしいと言います。「日本酒に関しては結構飲まず嫌いな人が多いし、若い人が飲みに行ってもそもそも選択肢に入っていないことも多い。同じ醸造酒であるワインを飲んでいる人が飲んでくれたら、意外といけると思ってもらえるのでは。普段ワインを飲んでいる人が日本酒に移行する。『長濱』はそういうきっかけになってくれる酒だと思う」。

山岡酒造・山岡仁蔵さん 2019年11月5日 筆者撮影

山岡酒造蔵元の山岡仁蔵さんは、明治から続く山岡酒造の4代目。プロジェクトの話をもらったときには80歳を目前に控え、あと2、3年で休業しようかと考えていたときだったので、悩んだ末まわりとも相談してやることにしたと言います。「あと数年は頑張る」「毎年勉強だ」という言葉にやりがいを感じている様子がにじみ出ています。

「年寄りでやれる量は限られている」として、山岡さんは自分が納得して対応できる範囲でしか仕事を受けていません。断っている仕事もあるなか、このプロジェクトにはきちんと対応していく姿勢を示してくれています。

山岡さんの所では「純米吟醸 長濱」の生産量は多くないので、搾りは基本的には袋吊りで行います。最後ヤエガキ式木槽でも雑味が出ないように搾りますが、あとほど酵母が働くので酒が辛くなります。その差をできるだけ小さくするようにしますが、最初に絞ったお酒と差があると感じればその分は混ぜません。また、火入れ後の温度管理も酒質が変化しないようにしっかり行います。「純米吟醸はそうした丁寧な作り方をしないといけない」と山岡さんは言います。山岡さんのこだわりは納品にも及びます。注文があっても、店の冷蔵庫の容量を見て、適正な管理ができる量までしか納めません。

「毎年勉強だ」と山岡さんは言います。「相手は生き物なので、放っておくと目標からはずれてしまう。横にいってしまうことのないよう、まっすぐ前だけ向いて造っている」山岡さんは独特の言い方で酒造りへの想いを語ってくれました。

株式会社黒壁・前田雅美さん 2014年4月18日 筆者撮影

株式会社黒壁の前田雅美さんは、プロジェクトをスタートしたとき、本当は山路酒造と佐藤酒造を含めた4蔵に参加してほしかったと言います。しかし、両方の蔵とも、それまで吟吹雪を使っておらず、精米機もないため、「長濱」のためだけの小ロットの精米ができず、参加してもらうのをあきらめざるを得ませんでした。

将来的には同じブランドを4つの蔵で出したいという思いは今でも持っているということです。もし、それが実現すれば画期的なことですし、味わう側にとってほんとうに贅沢なことだと思います。

また、今は黒壁AMISUの店頭だけでの販売だが、今後事業規模を拡大していくことを考えれば、販路をどう広げていくかも喫緊の課題と言えます。今後の飛躍に向けてどんな仕掛けが用意されるのか。期待して見守っていきたいと思います。

今年の吟吹雪もそろそろ刈り取りを迎える時期となりました。年明けにはどんなお酒に生まれ変わってくれるでしょうか。楽しみです。

NHKおうみ発630出演 2014年4月26日 みんな顔が緊張してます。
左から、粟谷瞳子さん(黒壁広報[当時])、ひとりおいて清水大輔さん、冨田泰伸さん、筆者、当時学生の後藤匠さん、園部浩史さん、原口大生さん

最後に、「純米吟醸 長濱」の楽しみ方について、蔵元の冨田さんと山岡さんからアドバイスがあります。冨田さんからは、冷やす温度は15度くらいがいいとのこと。冷蔵庫は冷え過ぎで、香りのあるタイプのお酒の場合、香りを感じにくくなってしまうと言います。冨田さん自身は、嗜好の問題と断りつつも、やや冷え位の感じがいいと話してくれました。また、山岡さんは「長濱」に合う食事についてアドバイスをしてくれました。「純米吟醸だと油気の少ないお造りなどが合う。焼き肉や脂っこい料理を食べるんだったら上撰。純米吟醸の良さは、やはり魚系のほうが引き立つ」

匠のアドバイスを胸に刻みながら来年の「長濱」誕生を待つこととします。皆さんもぜひ味わってみてください。

4回にわたり、長浜人の地の酒プロジェクトの活動をふりかえってきました。お読みいただきありがとうございました。

(以上)

(注1)国税庁[2021]「酒レポート 令和3年3月」国税庁ホームページ, (2021年9月23日取得, https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2021/index.htm).

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