若者たちは、気候変動を止める強力な対策を求めている~地球環境危機を救う猶予は10年~

by 松島悦子

異常気象や極端な降水量による災害の数が、大幅に増加しています。本年8月のIPCC報告でも、地球温暖化がさらに進行し、世界のあらゆる地域で、気候システム全体にわたって、気候変動は拡大、加速、深刻化していることが科学的に証明されました。強力な対策を取らない限り、私たちに残された時間はわずかです。世界各地で若者たちが「私たちの将来を破壊している」と抗議の声をあげ、各国のリーダーや企業に、気候危機を回避するための強力な対策を求めるムーブメントを起こしています。

Global Climate Strikeに参加する人々(メルボルン、2019年9月20日)(注1)

1.世界気候アクション0924 ~気候危機 見て見ぬふりはもうできない。~

 2021年8月9日に発表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書によると、人間の活動が温暖化を引き起こしていることは「疑う余地がない」と断定的に指摘されました。向こう数10年の間に、CO₂排出量を正味ゼロとし、その他の温室効果ガスの排出も大幅かつ持続的に削減するといった強力な対策をとらない限り、危機的な状況を避けることができません。

 2021年9月14日からの国連総会に合わせて、9月24日(金)に温暖化対策を求める運動として世界気候アクションが行われました。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんら各国の若者がオンラインで会見し、「一人でも多くの人に参加してほしい」と呼びかけ、世界各地で若者を中心に抗議活動が行なわれました。日本でも、Fridays For Future Japanが、「世界気候アクション0924オンラインマーチ」を企画し、企業や日本政府に気候正義を反映させた政策の実施とシステムの構築を求めています。

Fridays For Future Japan のホームページより(注2)

2.「Fridays For Future/気候のための学校ストライキ」から「グローバル気候マーチ」へ

 2018年、スウェーデン・ストックホルムで、16歳のグレタ・トゥーンベリさんが、政府に気候対策の強化を求めて、金曜日に学校を休んでたったひとり国会議事堂の前に座り込みました。「大人が私の未来を台無しにしようとしている」から、「Fridays For Future/気候のための学校ストライキ」を行っていると訴えました。この行動が、世界中の若者・子どもたちの共感を呼び、数百万人の人々が学校ストライキに参加する大きな運動に広がっていったのです。

 2019年には、9月23日の国連気候行動サミットに合わせて、各国の政府代表に、気候変動・温暖化に具体的な政策・行動を求める国際的なストライキ・抗議行動が行われました。これがグローバル気候マーチと呼ばれています。ガーディアン紙は、9月20日から27日までの間に、150カ国、4,500か所でおよそ600万人(主催団体によると760万人)がグローバル気候マーチに参加したと伝えています。ニューヨーク、オーストラリア、イギリス、ニュージーランド、イタリア、ジャカルタ、メルボルン、ベルリン、イスタンブール、グアダラハラ、アンマン… 世界中の大都市から小さな村々に至るまで、気候を守ろうと数百万もの人々が声をあげました。40カ国の2,000人以上の科学者が、子どもたちの学校ストライキを支援すると表明しています。

 日本でも、2019年9月20日に、全国各地、24の都道府県、27ヶ所で5,000人がグローバル気候マーチに参加しました。2020年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による世界的なパンデミックとなりなりましたが、それでも世界各地で若者たちは気候対策強化を訴えました。

Greta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ)(2019年9月)(注3)
(出典)Shadia Fayne Wood、 Survival Media Agency
ニューヨークの グローバル気候マーチに参加した小学生。撮影:津山恵子(注4)
(出典)Business Insider Japan( 2019年9月)
BEST OF Climate Strike, INDONESIA (2019年9月)(注5)

3.2021年IPCCの最新報告で分かったこと

①人間活動が温暖化を引き起こしたことは疑う余地がない

 2021年8月9日に発表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書によると、科学者たちは、世界のあらゆる地域で、気候システム全体にわたって地球の気候の変動を観測し、それらの分析結果から次のような結論を導いています。気候変化の多くは、数千年単位で前例のないものであり、20世紀後半以降の気候システムの温暖化は人間の活動が引き起こしている、ということは「疑う余地がない」と初めて断定的に指摘しました。人間活動による温暖化は、既に世界のあらゆる地域で熱波や大雨といった極端な気象現象に影響を及ぼしていて、今後気温が上昇すれば、影響はさらに大きくなると予測されます。

IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)(注6)
(出典)国際連合広報センターニュース・プレス2021年9月2日

②世界の平均気温の上昇幅を産業革命前から1.5℃に抑えなければならない

 世界の平均気温は現在、産業革命(18世紀)前から、すでに1.1℃上昇しており、「50年に1回起こる猛暑の日」の発生頻度が4.8倍に増えています。1.5℃まで上昇すると8.6倍になり、2℃上昇で13.9倍になると推計されます。

世界平均気温の変化(1850~1900年と比較)(注7
(出典)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠)
政策決定者向け要約(SPM)の概要(ヘッドライン・ステートメント)

 今後、どのような対策を取ろうとも、少なくとも今世紀半ばまで気温上昇が続き、熱波や大雨といった異常気象の頻度が増加すると予測されています。向こう数10年の間に、CO₂及びそのほかの温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に世界の平均気温は1.5℃はおろか2℃をも超えてしまいます。気候システムの多くの変化は、地球温暖化に直接関係して拡大します。すなわち、極端な高温、海洋熱波、大雨、いくつかの地域における農業および生態学的干ばつの頻度と強度、強い熱帯低気圧の割合が拡大し、北極域の海氷や、積雪及び永久凍土が融解し縮小していくということです。

CO₂排出が増加するほど、海洋と陸域の炭素吸収源が大気中のCO₂を減らす効果も小さくなると予測されます。したがって、過去および将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化、特に海洋、氷床及び世界海面水位における変化は、百年から千年の時間スケールで不可逆的です。すなわち、今後海面上昇や氷床融解などの現象は止まることはなく、元に戻すこともできない、海面水位は上昇し続けるということです。

③CO₂排出量の急減が必要

 しかし、CO₂の累積排出量を制限し、少なくとも正味ゼロ排出を達成し、メタンなどその他の温室効果ガスの排出を大幅かつ持続的に削減することができれば、気候変動を抑えることは可能です。2015年に合意された気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」(注8)では、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前から2℃未満、できれば1.5℃に抑えることを目標としています。気候危機を回避できるか否かは、各国の真摯な取り組み如何にかかっているといえるでしょう。

4.気候変動による被害の大きさ

 国連の世界気象機関(World Meteorological Organization;WMO)は、2021年8月31日、暴風雨や洪水、干ばつといった世界の気象災害の数が過去50年間で5倍に増加したと発表しました(注9)。災害の規模を示す最新の評価によると、1970年から2019年までの50年間で1万1000件以上の災害が発生し、200万人以上が死亡し、経済損失は3兆6400億ドル(約400兆円)に達したということです。WMOのペッテリ・ターラス事務局長は、「気候変動の影響で、世界の多くの地域で気象や気候、降水量における極端な現象が増加しており、今後その頻度と深刻さは増すだろう」と述べています。

5.気候変動の被害をより多くうけるのは貧困層と将来世代

 気象災害による死者の90%以上は、発展途上国で確認されているという不公平な事実があります。大量のCO₂を排出しているのは富裕層であり、貧困層の人々は、CO₂排出にほとんど関わっていないのにもかかわらず、気候危機によって激化した災害や、高騰した食料に苦しめられています。将来世代も二酸化炭素を排出していないのに、その影響に苦しむことになります。先進国の大都市が気候変動に影響を与えてきたことを認め、不公正な状況を是正すること、すなわち「気候正義」を実践することが必要です。

6.地球環境危機を救う猶予は10年

 地球は、変化に適応する力(レジリエンス)を持ち、安定的な環境を私たちに与えてきました。恵まれた地球環境の下で、人類は過去約1.2万年間に文明を発展させ、今日の経済発展を謳歌してきました。しかし、現在の生活様式や経済活動を継続する限り、今世紀後半まで人類の繁栄を維持することはできません。不可逆的な環境の壊滅を回避するために私たちに残された猶予は、実際には10年しかない、と専門家や科学者は厳粛に警告を発しています(東京フォーラム2020)(注10)。

クリスティアナ・フィゲレス前国連気候変動枠組条約事務局長は、「我々が(地球の)未来に影響力を行使できるのは、あと10年しかないということをはっきり申し上げたい。恐ろしいことに、2030年以降、我々はプロセスへの影響力を失い、その後は何をやっても大して意味はない。(地球環境)は完全に制御不能に陥り、どんな手段を使っても無駄ということになります」と警鐘を鳴らしました。

 今年11月、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が、イギリスグラスゴーで開催されます。初めて気候変動問題の解決に向けて、多国間の条約である国連気候変動枠組条約が採択されたのは1992年、第1回締約国会議(COP1)が開催されたのは1995年のことです。それから30年近い年月が経つというのに、十分な対策が取られないまま地球温暖化が加速し、異常気象や極端な降水量による災害の数が大幅に増加してしまいました。もはや、気候危機を回避するのに残された猶予はわずかです。

日本政府は、「パリ協定」で2030年の温室効果ガスの削減目標について、2013年度比26%削減 (2005年度比25.4%)を約束していましたが、2021年4月に米国バイデン大統領の呼びかけで開催された気候変動サミットでは、46%削減へと大きく上積みしました(注11)。これは欧米諸国も同様で、この削減目標を現実のものとしなければなりません。

グレタ・トゥーンベリは、Time紙の「 Person of the Year for 2019」に選ばれた(注12)

 グレタさんは、「私たちの将来を破壊している」と抗議し、「資本主義が経済成長を優先する限りは、気候変動を解決できない」と主張します。若者たちは、気候危機がもはや個人レベルの努力では抑えることができないところまで進んでいることを理解し、社会システムを変えなければ取り返しがつかないことを各国のリーダーに訴えようと世界各地で立ち上がったのです。

各国首脳、および私たち大人は、「汚れた地球を我々の世代に残さないで」という若者たちの切実な声を真摯に受け止め、世界の平均気温を産業革命前に比べて1.5℃までの上昇に抑えるよう最大限の努力を払わなければなりません。そのためにも社会経済システムの転換を早急に進める必要があります。

気候危機の原因は、経済成長を優先する資本主義である、という考え方は重要な論点であり、『人新世の「資本論」』(斎藤幸平、2020)に詳しく述べられているので、一読されることをお勧めします。

参考文献・URL----

・斎藤幸平、2020、『人新世の「資本論」』集英社新書

・IPCCホームページ https://www.ipcc.ch/

・気候ネットワークホームページ https://www.kikonet.org/

・ Fridays For Future Japan のホームページ  https://fridaysforfuture.jp/

注---------------

(注1)Pictured in Melbourne, strikers take part in the Global Climate Strike in Treasury Gardens. Friday September 20th, 2019. Photos by Teagan Glenane | Survival Media

(注2)Fridays For Future Japan のホームページより 

(注3)Greta Thunberg  (出典)Shadia Fayne Wood Survival Media Agency

(注4) ニューヨークの グローバル気候マーチに参加した小学生。撮影:津山恵子 (出典)Business Insider Japan( 2019年9月)
https://www.businessinsider.jp/post-199313

(注5)インドネシアの グローバル マーチに参加した人々。(出典)Getty Images / Jeff J Mitchell https://350org.widencollective.com/portals/iucshiv3/GlobalClimateStrikesMultimediaHub/c/4835b120-b8bc-4942-bce0-d4c60a9f77bf

(注6)IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)
(出典)国際連合広報センターニュース・プレス2021年9月2日 https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/42575/
(出典)‘IPCC Sixth Assessment Report’  https://www.ipcc.ch/assessment-report/ar6/

(注7)(出典)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠) 政策決定者向け要約(SPM)の概要(ヘッドライン・ステートメント)https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210809001/20210809001.html

(注8)パリ協定について(出典)資源エネルギー庁ホームページ2017-08-17
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html

(注9)国連の世界気象機関(WMO)について (出典)ロイターニュースメール(2021年9月2日)
https://jp.reuters.com/article/climate-change-un-idJPKBN2FY0G7

(注10)東京フォーラム2020(2020年12月3、4日)より
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z0508_00199.html

(注11)気候サミットを振り返り、新排出量削減目標を点検する (出典)独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0401/9ac24934b1ca2265.html

(注12)Greta Thunberg, the Swedish schoolgirl who inspired a global movement to fight climate change, has been named Time magazine's Person of the Year for 2019. 
(出典)BBCニュース‘Greta Thunberg named Time Person of the Year for 2019’(2019年12月11日) 
https://encrypted-tbn0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcSjrLXQVK7skwdnH65pKX3_K2hVxdHBqCV__Q&usqp=CAU

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