コロナ禍は仕事時間と家事時間にどのような影響を与えたのか⁈~国民生活時間調査より~

by 松島悦子

新型コロナウイルス感染症の拡大とその対策は、私たちの社会活動や経済活動に大きな影響をもたらしています。2020年4月に第1回目の緊急事態宣言が発出され、不要不急の外出自粛を求められ、移動や交流が制限され、これまでの日常が一変しました。ステイホーム、在宅勤務、学校休業等の影響は、サービス業、とりわけ飲食・宿泊業を直撃し、非正規雇用者を中心に雇用情勢が急速に悪化。家庭では、巣ごもり状態を続けるなか、テレワークやオンライン授業、ネットショッピングなどのデジタル化が進行。家族関係も影響を受け、家事分担などのジェンダー問題等が改めて表面化、などなど。様々な変化が起こっています。
そこで、コロナ禍において日本人の暮らしがどのように変化したのかを、仕事と家事の生活時間に注目して、NHK放送文化研究所が公表した「国民生活時間調査」の結果と諸研究機関の調査結果や統計データをもとに、客観的に捉えてみました。その結果より、特定の層にコロナ禍のしわ寄せがきていることが明らかになりました

緊急事態宣言下の滋賀県長浜市黒壁商店街(2020年5月1日)


それでは、仕事や家事・子どもの世話などの生活時間にどのような変化が起きたかを見ていきましょう。

1.「国民生活時間調査」とは

「国民生活時間調査」(以下、生活時間調査)とは、日本人の生活行動とその変化を時間という尺度で捉えることを目的として、NHK放送文化研究所が、1960年から5年ごとに実施してきた調査です。今回の調査は、おりしもコロナ禍の2020年10月10日~11月1日に実施されており、その結果が5月に発表されたばかりです。調査対象は、全国の10歳以上の国民7,200人です(有効回答率59.0%)(注1)。

昨年10月といえば、第1回緊急事態宣言(2020年4~5月)が解除され、7月22日のGo Toトラベルの開始とともに来た第2波の感染拡大がやや落ち着いてきた時期です。その後、年末年始にかけて陽性者が急増し、第2回緊急事態宣言(2021年1~3月)が首都圏や大都市で発出されました(図1)。

1.仕事と家事に大きな変化
(1)仕事時間は減少⁈

多くの人がワーク・ライフ・バランスの重要性を認めているものの、日本男性は、先進諸国の中でも労働時間がきわめて長いことが知られています。OECD加盟国の中で、有償労働時間は日本男性が最長で、有償労働と無償労働を合計した総労働時間は日本女性が最長という結果が公表されています(OECD国際比較2020)(注2)。令和2年度の厚生労働白書でも、依然として長時間労働が問題となっており、長時間労働の削減は喫緊の課題であることが指摘されています。過労死・過労自殺を防ぐためにも、働き方改革が重要政策のひとつとして取り組まれています(注3)。

生活時間調査をみると、有職者の仕事時間は、男女ともに1995年以降2015年までほとんど変化がなかったのですが、2020年の結果では大幅に減少したことが明らかになりました(図2)。有職者の平日1日当たりの仕事時間は、男性で2005年は8時間30分、2010年と2015年はいずれも8時間27分でした。それが、2020年は7時間52分となって、初めて8時間を下回ったのです。女性でも、2005年から順に、6時間16分、6時間8分、6時間13分と6時間台だったのが、2020年は5時間42分となって6時間を切りました。

同様な結果は、「労働力調査」でも出ていて、2020年の実労働時間は大幅に減少しています(注4)。

この仕事時間の大幅減少という結果は、長時間労働の削減を意味するのでしょうか。

図3の右下をみると、1日に「10時間を超えて」働く人が減少していました。年代別では、30・40代の男性で長時間労働者が大幅に減っていました。2015年では30代、40代ともに40%を超えていたのが、2020年ではともに約30%となっています。30・40代は、未就学児や小学生の父親が多いので、さらなる減少が求められます。父親が子育てにかかわることは、子どもの成長にとっても、夫婦関係にとってもよい影響があることが明らかになっています(注5)。

一方、図3の左下をみると、「0時間」が大きく増加している逆の現象に気が付きます。すなわち有職者でありながら、「仕事をしなかった」人が増加していました。「0時間」という回答が多かった業種は、「販売職・サービス職」です(2015年18%⇒2020年29%)。これは、緊急事態宣言下で、一時的な休業や営業の時間短縮を余儀なくされたことが影響しています。

また、失業率も、コロナ前より高くなっています(労働力調査:2020年1月2.4%、10月3.1%、2021年1月2.9%)(注6)。前年度よりも就業者数が減少した業種は、「宿泊業・飲食業」、「芸術」、「生活関連サービス・娯楽業」などで、これらは女性比率が高い業種です。女性で、パート労働者など非正規労働者の比率が高いことから、非正規雇用・女性という層で、相対的に感染拡大と緊急事態宣言の影響を大きく被っていると考えられます。

(2)家事時間は、男女差を維持したまま増加

家庭における家事・育児の性別役割分担について、生活時間調査の結果をみると、1995年以降、家事時間は「女性で減少」し、「男性で増加」するという傾向が続いてきました。男性の家事時間は、女性に比べてきわめて少ないものの、今回の2020年調査でも引き続き増加していました。平日でも1時間を超えました(図4)。

ところが、女性については、今回の調査で、平日の家事時間が増加し(2015年4時間18分⇒2020年4時間34分)、「女性で減少」してきたこれまでの傾向に逆行する結果となってしまいました。

内閣府の調査によると、「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という考え方(性別役割分担意識)に反対する人の割合は、男女とも長期的に増加傾向にあります。
平成28(2016)年の調査では,男女ともに反対する者の割合(「反対」+「どちらかといえば反対」)が賛成する者の割合(「賛成」+「どちらかといえば賛成」)を上回り,直近の令和元(2019)年の調査では,反対する者の割合が女性で63.4%,男性で55.7%となっています(注7)。意識は少しずつ変化しています。

今回の調査結果は、家事時間が男女差を維持したまま増加したことを示しており、ジェンダー平等を実現しようという流れにブレーキをかけたといえます。

(3)子どもの世話は、未就学児の母親で大幅増加

子どもの世話の時間については、「未就学児のいる女性」で大幅に増加しました(2015年5時間45分⇒2020年7時間11分)。小学生以上の子どものいる女性でも、統計的に有意に増加しています(図5)。

共働きの家庭が一般的になり、男性の家事・育児時間は増えてきたものの、多くの家庭で家事・育児を女性が主に担ってきました。図6にみるように、6歳未満の幼い子どもをもつ夫婦では、日本の妻は家事・育児関連時間が夫よりもきわめて長く、欧米諸国の妻と比べても長いことが明らかです。特に、日本の夫が諸外国の夫たちに比べて著しく家事・育児をしていないことが目立ちます(注8)。

家事と子どもの世話に関する生活時間調査の結果は、緊急事態宣言を経て、学校や保育所が休業となり、リスク回避のために外出が抑制され、夫がテレワークとなるなど、家族の在宅時間が急激に増えたことにより、子どもの世話や食事作りなどの仕事量が増大し、その負担がこれまで以上に女性に集中した実態を表しているといえます。

今回の調査では、「自宅で仕事をした」在宅勤務者が増えたことも確認されています。大都市圏でも1割程度と、それほど大きな数字にはなっていません。最も多かったのは、東京圏の20・30代の勤め人で2割でした。デジタル機器に強い層で、テレワークを先行して行なっているようです(注9)。

内閣府の調査で、コロナ禍で「テレワークをして感じたこと」ついて質問したところ、男性に比べて女性で、「家事が増えた」「自分の時間が減ることがストレス」と回答する人が多く(注10)、コロナ禍は、女性の負担をさらに重くしたことが明らかとなりました。
在宅勤務をすることで、通勤がなくなりストレスが減る、自由に使える時間が増える、家族一緒の時間が増えるなどの声もあり、「女性が働きやすくなる可能性がある」とも指摘されています。しかし、今回の結果から、女性、特に幼い子どもを育てている女性にしわ寄せがきているという問題が顕在化しました。

また、今回は取り上げていませんが、コロナ禍でのDVや子どもへの虐待の増加は、家族の在宅時間の増加に関わっていることが容易に想像できます。

3.コロナ禍における変化から見えたこと

ワーク・ライフ・バランスや男性の家事参加が推奨され、男女共同参画社会の実現と働き方改革が重要課題として取り組まれてきました。しかし、2021年3月に世界経済フォーラムが公表したジェンダー・ギャップ指数をみると、日本は156か国中120位で、G7で引き続き最下位に留まっています(注11)。政策目標を掲げても、達成への道のりは遠いという状況です。

こうした背景のもと、コロナ禍での2020年の生活時間調査より、仕事時間の劇的な減少と、女性の家事・育児時間のさらなる増加が明らかになりました。

仕事時間の減少要因として、緊急事態宣言下で営業制限を受けた特定の業種における仕事時間の損失の影響が含まれており、長時間労働の減少だけを単に喜ぶことはできません。営業制限を受けた事業者に対する経済的保障は不可欠です。そのためにも、調査などで実態をつかみ、今ある制度の十分な活用や見直しを求めます。

また、ジェンダーの問題として、失業率の高い業種で女性比率が高く、そして、家族の在宅時間の増加により、家事・育児時間が女性で大幅に増えたことから、コロナ禍において、女性がより厳しい状況に置かれている実態が浮き彫りになりました。デジタル化の進行により、テレワークは今後ますます普及すると予想されますが、顕在化した在宅勤務の問題解決が急がれます。
今回は、仕事と家事をテーマにしましたが、食生活や消費生活など他の観点からの変化も探っていきたいと思います。

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(注1)NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-jikan/
NHK放送文化研究所『国民生活時間調査2020生活の変化×メディア利用』(2021年5月)
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20210521_1.pdf

(注2)OECD “Employment database - Employment indicators”(2021年6月18日参照)
https://www.oecd.org/employment/emp/employmentdatabase-employment.htm
「生活時間の国際比較」内閣府男女共同参画局(2021年6月18日参照)https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html

(注3)厚生労働省ホームページ「長時間労働削減に向けた取組」(20216月18日参照)
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html

(注4)独立行政法人労働政策研究・研修機構『データで見るコロナの軌跡 データブック国際比較2020特別特集号』(2021年4月)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/f/documents/2021-04_covid-19.pdf

総務省統計局「労働力調査(基本集計)」(2021年6月20日参照)https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html

(注5)石井クンツ昌子『「イクメン」現象の社会学』ミネルヴァ書房(2013年4月)

(注6)注4と同じ

(注7)内閣府男女共同参画局『令和2年版男女共同参画白書』(2020年7月)https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-13.html

(注8)共働き世帯の増加は、内閣府男女共同参画局『令和2年版男女共同参画白書』参照。https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/honpen/b1_s00_01.html

6歳未満の子供の夫婦の家事・育児関連時間については、内閣府男女共同参画局『平成30年版男女共同参画白書』を参照(2021年6月18日)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03-08.html

(注9)ニッセイ基礎研究所の調査で詳しい分析結果が報告されている。
久我尚子「年代別に見たコロナ禍の行動・意識の特徴~働き方編」ニッセイ基礎研究所(2021年1月) https://jinjibu.jp/article/detl/hr-survey/2451/

(注10)「令和2年度 男女共同参画の視点からの新型コロナウイルス感染症拡大の影響等に関する調査報告書」(令和2年度内閣府委託調査)
内閣府男女共同参画局『令和3年版男女共同参画白書』(2021年6月18日参照)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/pdf/r03_tokusyu.pdf

(注11)内閣府男女共同参画局「共同参画」2021年5月号
世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2021」を公表したことを報じている。(2021年6月18日参照)
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202105/202105_05.html
ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)は、毎年、世界経済フォーラム(WEF)が発表している各国における男女格差を測る指数である。「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示す。2021年3月にWEFが公表した「The Global Gender Gap Report 2021」によると、日本の総合スコアは0.656、順位は156か国中120位(前回は153か国中121位)。前回と比べて、スコア、順位ともにほぼ横ばい、先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となった。

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