フードバンクでボランティア始めました
by 松島悦子
フードバンクは、困窮した人々の食を支援する重要な役割を担っています。グローバル資本主義は資源や富を偏在化し、経済格差を拡大し続けており、深刻な貧困問題を引き起こしています。新型コロナウイルス感染症対策により就業困難になった、飲食・宿泊業などの業種が集中して経済的影響を被り、非正規雇用者など所得の低い層ほど強い打撃を受けています。コロナ禍で傷んだ社会の役に立てればと思いたち、「フードバンクかながわ」でボランティアを始めました。
1.食で支援する
昨年10月から月1・2回程度ではありますが、「フードバンクかながわ」でボランティアをはじめました。一般に、フードバンクは、事業者や個人から寄贈された食品を収集し配付することを通じて、生活困窮者への支援を目的として事業をしています。二義的な目的として、食べることができるのに大量の食品が捨てられているというフードロスの対策の側面もあります。
フードバンクかながわは、寄贈された食品が集められる倉庫・中継地点で、食の支援の必要な人々を支援している団体や、子ども食堂、行政・社会福祉協議会等にそれらの食品を無償提供しています。個人に直接、食品を提供する場所ではありません。
扱う食品は、それぞれのフードバンクによって異なり、生鮮食品を対象とするところもありますが、フードバンクかながわでは、アルコールを除く「常温保存可能食品」及びお米(精米・玄米・もち米・籾米)に限られます。もちろん賞味期限前であることが条件です。
お米については、精米も含めてすべての米を精米してから、1.5㎏ごとに袋詰めにします。支援の必要な個人は、行政の窓口や支援団体などでこのお米を受け取るのですが、支援する側は継続して支援したいため、つながりを保つためにあえて小分けにしているということです。
NPOという形態が圧倒的に多いフードバンクですが、フードバンクかながわは規模が大きく、社団法人の形態をとっています。食料の寄贈者は、企業・生協、行政、個人など。2021年度は、契約を結んでいる寄贈締結団体が195、提供締結団体が252(行政・社協56、市民団体196)。寄贈食品の量は2020年度実績で、寄贈210トン、提供194トン。2021年度は9月末までで、寄贈より提供が上回っています。
2.仕分け作業のボランティア事始め!
フードバンクでボランティアを始めた動機は、退職して自由な時間ができ、現役世代の人々の役に立ちたいと思ったことと、これまで自分で取り組んできた研究テーマに近い、子ども食堂やフードバンクなどの活動を知りたいと思ったからです。家から30分ほどで行けるフードバンクかながわを見つけ、「自分も行ってみたい」という連れあいと一緒に行くことにしました。
ホームページを見ると、フードドライブによる食品提供は一つ一つの食品の賞味期限や破袋などのチェックを行うため、多くのボランティアの協力を必要としていました。作業内容は、①食品の点検 ②賞味期限のチェック ③分類と棚入れで、午前あるいは午後の2時間程度のボランティアが可能な方を募集していました。ボランティアを希望する場合、「事前に電話をください」とのこと。エプロンは用意されています。
早速、電話で申し出ると、気持ちよく受け入れてくれました。日程と時間帯を相談し、決まれば手続き完了です。当日はマスクを着用し、入り口で手指の消毒をし、挨拶も早々にお揃いの緑色のエプロンを着け、他の市民ボランティアの皆さんの中に入ります。初回は、事務局の方がフードバンクの事業概要と作業について丁寧に説明してくださり、先輩ボランティアの方々が、一緒に作業をしながら親切に教えてくれます。
まず、送られてきた段ボールを開けて、寄贈された加工食品を主食類、おかず類、お菓子類、飲み物の4つのグループに分類し、ひとつひとつの食品の状態と賞味期限を確認します。寄贈者名や食品の重さなど必要事項を記帳してから、賞味期限が「○年〇月」と表示された棚にひとつひとつ収めていきます。
午前中、あるいは午後の2時間程度、皆さんと一緒に作業をします。判断がつかない場合は、その都度、先輩や事務局の方に相談します。皆さん、忙しい手を止めて快く応えてくれるので、遠慮なく何度でも聞くことができる雰囲気があります。私語もせずに無心で黙々と作業しているうちに、アッという間に2時間が過ぎ、心地よい疲れを感じます。これがボランティアの、ささやかですが最大の喜びなのかもしれません。
3.理不尽な現実
「フードバンクかながわ」は、横浜市金沢区に倉庫兼事務所があり、シーサイドライン「鳥浜駅」から徒歩3分の所にあります。駅の反対側から続くコンコースを歩いて行くと、2020年にリニューアルオープンした三井アウトレットパークと、真っ白な大型のボートが無数に並ぶ横浜ベイサイドマリーナが広がっています。
その日を生きるための食料が足りないという人々が増えているのに、その一方で大型ボートを持つ富裕な人々がこんなにたくさんいるという現実を目の当たりにし、富の偏在という社会の矛盾を痛感せざるを得ません。
コロナ禍の下で、逆に業績を伸ばしている企業もあり、また、企業内に蓄積された利益にあたる「内部留保」(利益剰余金)が2020年度、過去最高の484兆円に達したことが明らかになっています。
一部の富裕層と大企業に富が集中している現状は、公平な社会といえるのでしょうか。
4.子どものいるひとり親世帯の約半数が貧困
2019年国民生活基礎調査によると、日本の相対的貧困率は15.8%、子どもの貧困率は14.0%。こどもがいる現役世帯のうち、ひとり親世帯の貧困率は48.2%と極めて高く、OECD加盟国中で最下位です。2020年春からのコロナ禍により、こうした世帯がさらに打撃を受けていると考えられます。
際限なく成長を追求する資本主義は、経済格差と気候変動という2つの危機をもたらしました。日本社会でも経済格差が拡大し、貧困問題が深刻な社会問題となっています。そこに、新型コロナウイルス感染症拡大と緊急事態宣言等が追い打ちをかけるように、飲食・宿泊業などを中心としたサービス業を直撃しました。運輸や百貨店なども含めた一部の業種で業績が著しく減少し、非正規雇用者などの雇用情勢が急速に悪化しました。所得の低い層ほど打撃を受け、収入が減少したり、仕事を失ったり、住む家さえ失う人々も現れ、新型コロナウイルス禍は困窮状態にある人々を可視化しました。
フードバンクかながわ事務局の方にお話を伺うと、コロナ前に比べて、提供した食品の量が増えており、寄贈された食品だけでは足りず、生活に必須のお米などを寄付金で購入して補足しているそうです。
収束の見えないコロナ禍で、生活保護を受ける人が増加し、受けられずに炊き出しに並ぶ人がかつてないほど増加しています。コロナ禍でアルバイトができず、仕事が減った親に生活費を頼ることができず、「食事を1日1回にしている」という女子学生の窮状を報道番組で知りました(TBS報道特集)。
NHKのクローズアップ現代プラスでは、「家を失う女性たち」というテーマで、ホームレスの炊き出しに並ぶ女性たちの姿がかつてないほど多く見られるようになったことを伝えていました。「家賃が払えない」ために家を失った人や、家賃が収入の4割以上、中には9割という人もおり、食費をおさえるために炊き出しに並んだというのです。
フードバンクは、困窮した人々を支援するため、食料を無償で提供するために立ち上がった団体です。食品を寄贈する人々の思いを食品に載せて、支援を必要としている人々につないでいく、そんな役割を担っていると言えます。コロナ禍が長引くほど、力を発揮するでしょう。
しかし、そうした社会は健全といえるのか、とふと思います。
次回以降、フードバンクの仕組みやフードロス対策、提供を受けた利用者の声などについて紹介します。
参考文献----------------------------------------------------------------------------------------
・『フードバンクかながわ学習資料2021年度版』公益社団法人フードバンクかながわ
・『フードバンクかながわ通信2021.9』公益社団法人フードバンクかながわ
・フードバンクかながわホームページ(2022年1月22日参照)
・農林水産省ホームページ「フードバンク」(2022年1月22日参照)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/foodbank.html
・大原悦子『フードバンクという挑戦』岩波書店、2016
・『新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響』(財務局調査)令和3年1月、財務省
・斎藤幸平「ジェネレーション・レフト」『世界』No.938,2020年11月号、岩波書店
・斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書、2020
・ヨルゴス・カリス、スーザン・ポールソン他、上原裕美子/保科京子訳、斎藤幸平解説『なぜ、脱成長なのか』NHK出版、2021
・TBSテレビ 報道特集2020年10月13日放送
・NHKクローズアップ現代トップ「家を失う女性たちVol.1」(2022年1月22日参照)