ゲノム編集食品はもう食卓まで来ています(1)国内で上市されているゲノム編集食品
by 松島三兒
みなさんは「ゲノム編集」という言葉をご存知でしょうか? 「知ってるよ、ノーベル賞取った技術でしょ」という人もいれば、「知らないな、遺伝子組換えとは違うの?」という人もいるかもしれません。実は、ゲノム編集技術を応用して開発された食品は、昨年末から今年にかけて、既に3品目も国内市場に登場しているのです。
どんな食品が上市されているのでしょうか? 一緒に見ていきましょう。
これまでに厚生労働省及び農林水産省に届出され、上市されているゲノム編集技術応用食品は以下の3つです(注1)。
(1)GABA高蓄積トマト(注2)
GABA(γ-アミノ酪酸)の含有量を通常より4~5倍高めたトマト。GABAは血圧改善やストレス緩和等の機能を有することが知られており、機能性表示食品(注3)にもよく使われる(注4)成分です。筑波大学生命環境系/つくば機能植物イノベーション研究センターの江面浩教授が開発しました。このトマトは、2020年のノーベル化学賞の対象となったCRISPR/Cas9(クリスパー/キャス9)を用いたゲノム編集技術により開発された世界で初めての食品です。
商業化に向けた開発は、同教授が取締役最高技術責任者(CTO)を務めるサナテックシード株式会社で進められました。同社の親会社である種子販売会社パイオニアエコサイエンス社が販売する調理用品種シシリアンルージュCFの種子親系統を改変することにより、GABA高蓄積トマトは開発されました。食品安全性や生物多様性影響等を確認したのち、厚生労働省及び農林水産省への届出は2020年12月11日に完了しました。
食用に供されるのは、上記のGABA高蓄積トマトを親とするF1品種「シシリアンルージュ ハイギャバ」です。販売を担うパイオニアエコサイエンス株式会社は、届出完了日の2020年12月11日から栽培モニターを募集し、家庭菜園用苗を無償配布するところからスタートしました。その後、2021年4月23日にはトマトピューレの先行予約受付を開始し、9月15日には青果物のオンライン販売を、また10月11日には家庭菜園用栽培キットのオンライン販売をそれぞれ開始しています。
(2)可食部増量マダイ(注5)
可食部が1.2倍(最大1.6倍)となるよう改善したマダイ。京都大学大学院農学研究科の木下政人准教授が近畿大学水産研究所の家戸敬太郎教授と共同で開発しました。このマダイもは、ゲノム編集技術を応用して開発された世界で初めての動物食品となります。GABA高蓄積トマトと同様、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術が使われました。
両氏の技術をもとに2019年4月に設立された大学発ベンチャーのリージョナルフィッシュ株式会社が、食品安全性と環境影響を確認し、2021年9月17日に厚生労働省と農林水産省への届出を完了しました。同社の発表によれば、両省への届出手続きの中で、「今回のゲノム編集は、遺伝子組換えではなく自然界でも起こりうる変化であること、食品としての安全性が従来の食品と同程度であること(オフターゲットや有害物質の産生が認められない)、生物多様性に悪影響を及ぼすものでないことが確認されて」いるということです。
リージョナルフィッシュ株式会社は、可食部増量マダイを「22世紀鯛」と名付け、届出完了日の9月17日からクラウドファンディング活用して190食分の予約を受け付けました(注6)。9月30日に受付を終了し、10月から商品の発送を開始しています。
(3)高成長トラフグ(注7)
通常より1.9倍速く成長するように改善したトラフグ。京都大学の木下政人准教授と近畿大学の家戸敬太郎教授の共同開発第2弾となります。成長速度が速いだけでなく、飼料利用効率(体重増加÷摂取した飼料量)が42%と、より少ない飼料での生育が可能となっています。
リージョナルフィッシュ株式会社は、可食部増量マダイの場合と同様、食品安全性と環境影響を確認し2021年10月29日に厚生労働省と農林水産省への届出を完了しました。今回のゲノム編集も「自然界でも起こりうる変異」であること、「狙った遺伝子以外の遺伝子に変化(オフターゲット変異)がないことを確認して」いるということです。また、高成長トラフグも陸上養殖で飼養し、自然界に逃げ出さないようにしているため、生物多様性に悪影響を及ぼさないことが確認されています。
同社は、開発されたトラフグを「22世紀ふぐ」と名付け、届出完了日の10月29日から11月28日までの間、クラウドファンディングを活用して予約を受け付けています。
3つのゲノム編集技術応用食品の概要を紹介しましたが、いかがだったでしょうか? こんなものをつくってしまうゲノム編集技術っていったい何なんだ!と思った方もいるかもしれません。
次回はいよいよ、ゲノム編集技術とはどんな技術なのか見ていきましょう。
(注1)厚生労働省「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧」厚生労働省ウェブサイト, 2021年(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bio/genomed/newpage_00010.html)
農林水産省「届出されたゲノム編集飼料及び飼料添加物一覧」農林水産省ウェブサイト, 2021-10-29.(https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/siryo/ge_todokede.html)
(注2)国立大学法人筑波大学・サナテックシード株式会社「ゲノム編集技術により開発したGABA含有量を高めたトマトの届出提出について」サナテックシード株式会社ウェブサイト, 2020-12-11.(https://sanatech-seed.com/ja/20201211-1/)
(注3)機能性表示食品は、「安全性及び機能性に関する一定の科学的根拠に基づき、食品関連事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨の表示を行うものとして、消費者庁長官に届け出られたもの」とされており、特定保健用食品のような個別の審査はありません。「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/assets/foods_with_function_claims_210322_0002.pdf)等に従って表示内容や安全性及び機能性の根拠等に関する情報を揃え、販売日の60日前までに届け出ることによって販売可能となります。
(注4)「機能性表示食品の届出情報検索」(https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/search)を用いて、GABAを機能性関与成分とする食品を検索すると、2021年11月14日現在で486件が届け出られています。
(注5)リージョナルフィッシュ株式会社「ゲノム編集技術を利用して開発した「可食部増大マダイ」、厚生労働省及び農林水産省への届出完了」リージョナルフィッシュ株式会社ウェブサイト, 2021-9-17.(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000060432.html)
(注6)リージョナルフィッシュ株式会社「世界初!ゲノム編集技術を利用して開発された「22世紀鯛」を多くの人に届けたい!」CAMPFIREプロジェクトページ, 2021-9-17.(https://camp-fire.jp/projects/view/400934)
(注7)リージョナルフィッシュ株式会社「ゲノム編集によって生まれた地球にやさしい「22世紀ふぐ」を多くの人に届けたい!」CAMPFIREプロジェクトページ, 2021-10-29.(https://camp-fire.jp/projects/view/512578?list=popular)